エピローグ
エピローグ
その後、泣き止んだ聖心愛から、そろそろ家族が帰ってくると言われ、二人は外に出た。
さすがにいま、志信がここにいると、聖心愛の家族を責めてるみたいで決まりが悪い。
「そう言えば、聖心愛。なんであの日、ラブホテルに助けに来てくれたの?」
暗くなった道を歩きながら、志信は聞いた。
「そりゃ……オメー……。あの日あたしら、なんか気まずいまま別れちまったじゃねーか。だからさ、下校の時話しかけようとしたら、オメーの父ちゃんとうちのババア見つけてさ。それで後をつけてったってわけ」
「え、でもそのあと車に乗せられたんだよ。どうやって追いついたの?」
「なんか嫌な予感がしてよ、ババアの車に忍び込んでた。あいつ、後ろの座席散らかしてただろ?毛布あったから隠れるのは簡単だったぜ」
「それでか……。よくそんな先回りができたね」
「先読みはあたし、得意なんだぜ」
「そう?じゃあこうなることも予想してた?」
志信は、不意に聖心愛を抱きしめた。身体が温かい。
「お、オメー……恥ずかしいことすんなよ」
「恥ずかしくなんかないよ。誰も見てないだろ」
「オメーは恥ずかしくないかもしれねーけど、あたしは恥ずかしいんだよ。放せよ」
聖心愛は志信を無理矢理振りほどいて、言った。
「……オメーにもう一つ言っておくことがあった。結婚は……正直まだ迷ってるんだぜ」
「そりゃあ……うん。高校生でってのは早すぎるよね」
勢いあまってプロポーズしたことを、志信は後悔していた。でも、もうその必要はない。聖心愛が急いで結婚しなくても、もう聖心愛の親権は父親側にあるのだ。
「そうじゃなくってよ……オメー、親が離婚して母ちゃんの苗字に変わっただろ?たしか、本田だよな?本田志信」
「……うん、まだ慣れないけどね」
「あー、だめだだめだ。本田聖心愛になってみろ。ガトーショコラがフォンダンショコラになっちまう」
「あ、ほんとだ」
「あたし、名前変えようかな。あのババアが面白半分でつけた名前なんだしさー」
「僕は結構気にいってるよ。聖心愛は聖心愛だよ。変な名前だけど」
「ほら、変な名前だって思ってるじゃねーか」
二人の間に笑いが起きる。もう聖心愛に遠慮はなかった。
「あのさ、志信……よ。あたしオメーのこと嫌いじゃないぜ」
「うれしいな。僕も志信のこと嫌いじゃないよ」
「茶化すなよ、恥ずかしいんだぞ。これでも。……ったく、そういうところは嫌いだ」
「じゃあ、それ以外は?」
「……あ……う……その……だな」
「僕は大好きだよ、聖心愛のこと」
「う、うるせー!あたしだってオメーのこと大好きだよ!子どもの頃からずっと好きだったよ!」
「あはは。ありがとう。聖心愛。やっと言ってくれたね」
志信はここ最近、誰にも見せたことのない笑顔で言った。
「ハッピーエンドを迎えたら、改めて言ってくれることって、それかな?」
聖心愛は、自分が言ってしまったことに気づくと、しばらく志信を見つめて、言った。
「そ、そうだよ。悪いか?」
「悪くない。嬉しいよ」
「……でも、お互い両親が離婚した同士だろ?結婚してもうまくいく保証なんか、どこにもないんだぜ」
「うまくいかないって保証もどこにもないさ」
「それじゃ博打じゃねーか」
「ちがうよ、聖心愛。博打じゃない」
志信は改めて、聖心愛の目をじっと見る。
「お試し期間は、これからおとなになるまでずっと続いてる。働くようになってからでもいい」
聖心愛の頬が赤く染まる。志信が何を言わんとしているのか、わかっているのだ。
「結婚を前提として、僕とお付き合いをしてください。いいね?」
「……ああ、いいぜ。約束だぞ」
そう言って聖心愛は、志信の唇に自分の唇を押し付けた。
そこで志信は思い出す。そうだ、僕のファーストキスは、ショコラママなんかじゃない。
聖心愛と別れたあの日、たしかに僕と聖心愛はキスをしたじゃないか。
僕には血の繋がらない、妹みたいな女の子がいた。
ことわっておくけど――妹だからといって必ずしも仲がいいわけじゃない。それだけは覚えておいてほしい。
僕たちは、たまたま特別に仲がよかっただけなのだ。




