6、◇姉さま◇
炎を囲んで姉達が踊っている。篝火は火の粉を散らして、パチパチと爆ぜる。
丘の上だ。
明るい陽の下なら、一面に緑の絨毯が広がる場所だ。今は点々と、星を鏤めた夜空が見える。
一人離れた場所で、娘は膝を抱えて眺めていた。
何て綺麗なんだろう。
しなやかな手足が舞う度、ドレスの裾や袖口にあしらわれた麗糸や飾紐が翻る。拍子を取る度、しゃらしゃらと、身を飾る貴金属が音色を奏でる。
思い思いに結い上げた髪には、彩とりどりの花冠を戴いていた。鈴蘭、七竈、上溝桜、紫丁香花。すんなりとした肩に、黄金の巻毛が弾む。
姉達と揃いの衣装を身に着けているが、まるで自分には似合わない。
片足を軸にした旋回。
空を切る片足跳び。
自分は、五度も回れない。あれ程、高く跳躍出来ない。
我知らず溜息を吐くと、姉が声を掛けてきた。
「何をしているの、あなたもいらっしゃい」
「わたし、姉さまみたいに上手に出来ないわ」
一糸乱れぬ踊りの輪を、台無しにしたくない。すっかり気後れして、娘は頭を振った。
「いいのよ、私達が一緒に踊りたいの」
両腕を引っ張られて、仕方なく加わった。
くるりと回っても、三回半で足を着く。
一拍遅れて、跳び上がる。
やっぱり下手だ。
幾度教えて貰っても、巧く出来ない。感性が異なるのだろうか。
何時しか、皆と動きが揃っていることに、気が付いた。
否、違う。皆が自分に合わせてくれているのだ。器用な姉達ならば、容易いことだ。
両手を繋いで輪になったまま回る。不思議な程、足取りは軽い。
炎の向こうで、姉達が笑い合う。
踊りは苦手なはずなのに、何だか楽しくなってきた。くすくすと、思わず声が出てしまう。
ああ、本当に大好きだ。大好きな、優しい姉達。
ふと見上げると、青翡翠の髪飾りを灯火に照らして、〝かあさま〟が微笑んでいた。
目の前で、炎が揺らいでいる。
ぼんやりと眺めながら、ティスは身を起こした。暫く何処にいるのか分からずに、何度も瞬きを繰り返す。
不意に、顔を覗き込まれた。黒髪に赫い瞳の青年が、訝しげに見詰めてくる。
「大丈夫か?」
「……フェンリル」
そうだ、今は彼と一緒にいるのだった。
此処は森から外れた洞窟の入り口だ。フェンリルが夜に動き回るのは危険だと言って、休むことにしたのだ。
暖を取るため、枯れた枝葉を集めて燃やしている。火はフェンリルが点けた。軽く息を吹き掛けただけで、火柱が上がった。
一瞬驚いたが、神々が恐れ慄く魔狼だ。それくらい出来ないはずがない。
「ごめんなさい、夢を見ていたの」
目元を拭うと、ティスは笑みを浮かべた。
「夢? どんな?」
「忘れちゃった」
何だか、とても懐かしい光景だったような気がする。胸の奥がまだほんのりと温かった。
「もしかして、ずっと起きていたの?」
こんな状況にも拘わらず、疲れて寝入ってしまった自分が恥ずかしい。
フェンリルは頭を振った。
「気にすんな。元々あんま眠らねぇんだよ」
その言葉が本当か嘘かは、ティスには分からない。夜を徹して警戒していたのかも知れなかった。
ティスから少し離れて、フェンリルは腰を下ろした。炎に視線を落としてから、意を決したように顔を向ける。
「あのさ、一つ訊いても構わねぇか?」
何時になく真剣なその表情に、ティスは固唾を呑んだ。




