第97話 揺るがぬ意志 ― 父王の真相を追う
朝の光が差し込むロザリンの部屋。
窓辺に立つロザリンの瞳は、
昨夜よりもずっと強く、深く揺れていた。
(……お父様のあの姿……
あれは……ただの病ではない……)
胸の奥が痛む。
けれど、その痛みはもう“恐れ”ではなかった。
扉のそばに立つロウが、
静かにロザリンを見守っている。
ロザリンは振り返り、
ロウの瞳をまっすぐ見つめた。
「……ロウ。私……決めたわ。」
ロウは一歩近づき、ロザリンの言葉を待つ。
ロザリンは胸に手を当て、深く息を吸った。
「……お父様の真相を追う。
誰が……何をしたのか。
どうして……あんなに弱ってしまったのか。
全部……知りたい。」
ロウの瞳が静かに揺れた。
「……姫様。
それは……危険を伴います。」
ロザリンは頷いた。
「分かってる。
でも……もう逃げない。
お父様のためにも……私自身のためにも。」
ロウはロザリンの手を取り、そっと包み込んだ。
「……姫様が進むなら……私はその道を守ります。」
ロザリンの胸が温かくなる。
だが、その温もりの裏で、
王宮の空気は確実に変わり始めていた。
ロザリンが部屋を出ると、侍女たちが一瞬だけ視線を向け、すぐに目を逸らした。
(……噂が広がっている……)
ロザリンは歩みを止めず、静かに進む。
ロウは半歩後ろを歩き、周囲を警戒していた。
「……姫様。視線が増えています。」
「ええ……感じるわ。」
ロザリンは振り返らずに答えた。
(……誰かが……
私の動きを探っている……)
胸の奥に冷たいものが走る。
だが、足は止まらなかった。
記録庫の前。
ロザリンは立ち止まり、扉を見つめた。
(……ここから始める。
お父様の病の記録……
そして……禁忌の魔術の痕跡……)
ロウが小声で囁く。
「……姫様。中に人の気配はありません。
今なら……安全です。」
ロザリンは頷き、扉に手をかけた。
その瞬間──
背後の廊下の角で、誰かの影がわずかに動いた。
ロウの瞳が鋭く光る。
(……見られている……)
だがロウは声を出さなかった。
ロザリンを不安にさせないために。
ロザリンは気づかぬまま、扉を押し開けた。
記録庫の中へ。
薄暗い部屋に、古い紙の匂いが漂う。
ロザリンは棚に手を伸ばし、父王の診療記録を探し始めた。
(……お父様……
あなたに何が起きたの……?)
ロウは扉の前に立ち、外の気配を探る。
その背中は、恋人としての優しさと、
護衛としての鋭さを併せ持っていた。
角の陰に潜む人物が、
小さく呟いた。
「……姫が……記録庫に……?」
その声は震えていた。
そして──
その報告は、
すぐに“あの男”の耳に届くことになる。




