第95話 揺れる心 ― ロザリンの不安と、ロウの静かな支え
父王の部屋を後にしてから、
ロザリンの胸の奥はずっとざわついていた。
部屋に戻っても、外套を脱いでも、
温かいお茶を口にしても──
心だけが落ち着かない。
(……お父様……あんなに弱って……
どうして……)
ロザリンは胸元を押さえ、深く息を吸った。
その時、そっと肩に触れる手があった。
ロウだった。
「……姫様。
少し……座りませんか。」
ロザリンは頷き、
ロウに導かれるまま椅子に腰を下ろした。
ロウはロザリンの隣に膝をつき、
手をそっと包み込む。
その手は温かく、
静かで、優しい。
けれど──
ロザリンの胸の不安は消えなかった。
「……ロウ。
私……怖いの。」
ロウは目を伏せたまま、
ロザリンの手を少し強く握った。
「……姫様。
怖がっていいんです。私は……そばにいます。」
その声は優しいのに、
どこか痛みを含んでいた。
ロザリンはロウの横顔を見つめた。
(……ロウも……何かを抱えている……
私に言えない何かを……)
恋人同士になってから、
ロウは以前よりも近くなった。
触れる距離にいてくれる。
手を握ってくれる。
抱きしめてくれる。
でも──
心の奥の一番深いところだけは、
まだ触れられない。
ロザリンは小さく呟いた。
「……ロウ。
あなたが黙っていると……
私は……
あなたまで失いそうで……怖いの。」
ロウの指がわずかに震えた。
ロザリンは気づいた。
(……ロウ……
あなたも……苦しんでいるのね……)
ロウはゆっくりと顔を上げ、
ロザリンの手を両手で包み込んだ。
「……姫様。私は……離れません。
どんなことがあっても……
姫様のそばにいます。」
その言葉は、恋人としての誓いそのものだった。
ロザリンの胸が熱くなる。
でも──
その奥にある“沈黙”は、まだ溶けない。
ロザリンはロウの手を握り返し、
そっと頬を寄せた。
「……ありがとう、ロウ。
あなたがいてくれるだけで……
私は前に進めるわ。」
ロウは目を閉じ、
ロザリンの頬にそっと触れた。
「……姫様。
私は……姫様の光になりたい。
闇に触れさせません。」
その声は、恋人としての深い愛と、
言えない痛みを同時に抱えていた。
ロザリンはその温もりに身を預けながら、
胸の奥で静かに思った。
(……ロウ……
あなたの心の奥にある影……
いつか……私に話してくれる日が来るの……?)
その問いは、
まだ言葉にはならなかった。
ただ、
二人の指はしっかりと絡み合っていた。




