第9話 決意の夜
森の空気は冷たく澄んでいた。
ロザリンは、さっきまで胸の奥に押し込んでいた不安を
すべてロウに話してしまったせいか、
少しだけ呼吸が楽になっていた。
けれど──
その代わりに、
胸の奥に別の感情が芽生えていた。
「ロウ……」
ロザリンは、
月明かりに照らされたロウの横顔を見つめた。
「私、王宮に戻るのが怖いの」
ロウは静かに目を向けた。
「……姫様が、ですか」
ロザリンは小さく頷いた。
「お父様の病も、貴族たちの態度も、
兄の優しさも……
全部、何かが噛み合っていない気がするの。
でも、私は王女なのに、何もできない」
ロウは黙って聞いていた。
ロザリンは続ける。
「王宮に戻れば、
また“何も知らない王女”に戻ってしまう。
兄の言うことを聞いて、笑って、
心配しすぎだと慰められて……
本当のことは何も分からないまま」
ロザリンの声は震えていた。
「でも……今日、ロウに話して気づいたの。
私、ひとりじゃ何もできない。
でも……ロウがいてくれたら、
私は……前に進める気がするの」
ロウの胸が静かに揺れた。
ロザリンは一歩、ロウに近づいた。
「ロウ。私……
お父様のことも、王国のことも、
ちゃんと向き合いたい」
ロウは息を呑んだ。
ロザリンはまっすぐに言った。
「でも……
私ひとりじゃ怖い。
ロウが……必要なの」
その言葉は、ロウの胸の奥に深く落ちた。
ロウは静かに膝をつき、
頭を垂れた。
「姫様。
僕は……あなたの力になります。
どんな場所でも、どんな影があっても」
ロザリンの瞳が揺れた。
ロウは続けた。
「姫様が王宮に戻るときに……
僕も、あなたと共に戻ります」
ロザリンは小さく息を呑んだ。
「……ロウ。
本当に……?」
「はい。
姫様が必要としてくださるなら、
僕はどこへでも」
ロザリンは胸に手を当てた。
その鼓動は、さっきまでの不安とは違う。
「ロウ……ありがとう。
私、あなたと一緒に戻りたい」
ロウは静かに頷いた。
その瞬間、ロザリンの“孤独”は、
“決意”へと変わった。
そしてロウは、
姫のそばに戻る覚悟を固めた。
月明かりの森で、
ふたりの影は寄り添うように重なった。




