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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: 月乃雫


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第86話 父の記録 ― 静かに崩れる前提

記録庫の扉が閉まり、


足音が完全に遠ざかったあと。




ロザリンは棚の影に身を潜めたまま、


胸に手を当てて小さく息を吐いた。




ロウは周囲の気配を確認し、


静かに囁いた。




「……もう大丈夫です。


姫様、動けますか。」




ロザリンは頷いたが、


胸の奥の緊張はまだ解けていなかった。




(……宰相の部下……?


どうして記録庫に……)




ロウはロザリンの不安を察したように、


声を落とした。




「姫様。


記録庫に来るのは本来、管理官だけです。


今の足音は……


“見張り”の可能性があります。」




ロザリンは息を呑んだ。




(……宰相……


何を隠しているの……?)




ロウは棚の別の区画を指した。




「姫様。


父王の診療記録……


こちらにあります。」




ロザリンの胸が強く揺れた。




(……お父様の……)




ロウは箱を慎重に取り出し、


ロザリンの前に置いた。




「……開けますか。」




ロザリンは迷わず頷いた。




箱を開け診断書をめくった。




その診断書の記録を見たロウの表情が、


わずかに変わった。




「……ロウ?」




ロウは答えず、


紙に記された数行を凝視した。




“魔力反応が不規則”


“急激な衰弱”


“説明不能の悪化”




ロザリンは不安そうに見上げる。




「……おかしいの……?」




ロウはゆっくりと息を吸い、


静かに言った。




「……姫様。


これは“病”ではありません。」




ロザリンの胸が強く揺れた。




「……じゃあ……何なの……?」




ロウは短く答えた。




「……“力”を奪われている症状です。」




ロザリンは息を呑んだ。




「……力……?」




ロウは頷く。




「魔力を乱され、身体が弱っていく。


自然では起こりません。」




ロザリンは震える声で言った。




「……じゃあ……


誰かが……お父様を……?」




ロザリンの手が震えた。




ロウはロザリンの手をそっと包んだ。




(……お父様……


誰かに……力を奪われている……?)




ロウは別の診断書を取り出し、


走り書きのようなメモを指した。




“魔力反応が説明不能。


記録不可。”




ロザリンは息を呑んだ。




「……魔力反応……?


病気でそんな……」




ロウは静かに言った。




「……禁忌の魔術に触れた時の反応です。」




ロザリンの心臓が跳ねた。




「……禁忌……?」




ロウはロザリンの目を見て、


短く、しかし揺るぎなく言った。




「……宰相ヴァルガが、扱うとされている魔術です。」




ロザリンは息を呑んだ。




(……ヴァルガが……


お父様に……?)




ロウは続けた。




「姫様。


これは“自然な病”ではありません。


“仕掛けられた衰弱”です。」




ロザリンは目を閉じ、深く息を吸った。




(……お父様の病……宰相の動き……


政略結婚……


全部……繋がっている……)




ロウはロザリンの横顔を見つめ、


静かに言った。




「姫様が真実を求めるなら……


私は隣にいます。」




ロザリンはゆっくりと目を開けた。




「……ロウ。


私……知りたい。


お父様のこと……全部。」




ロウは短く頷いた。




「……共に。」




その瞬間、


記録庫の扉の向こうで気配が動いた。




ロウの表情が鋭くなる。




「……戻ってきた。


姫様、こちらへ。」




ロザリンはロウの手に導かれ、


棚の奥へ身を潜めた。




(……ロウ……あなたがいるから……


私は進める……)




記録庫の静けさの中で、


二人は“禁忌の真実”へ向かって、確かに歩き始めていた。

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