第83話 二人の最初の一歩
朝。
ロザリンは、いつもより少し早く目を覚ました。
昨夜のことが胸の奥で静かに温かく残っていて、
自然と目が開いた。
(……ロウ……)
名前を思い浮かべるだけで、 胸の奥がじんわりと熱くなる。
けれど、その温かさのすぐ隣に、
小さな不安があった。
(……これから、どうすればいいのかしら)
結婚の話。
宰相の圧。
お父様の病。
どれも重い。
でも──
(……ロウと一緒なら……)
ロザリンはそっと息を吐いた。
ロザリンは身支度を整え、侍女が退出したあと
── コン、コン。
いつもの時間。
いつものリズム。
でも、胸が跳ねる。
「……どうぞ。」
扉が開き、ロウが立っていた。
姿勢も制服も、いつも通り。
でも── 目が違う。
昨夜の続きのように、どこか柔らかい。
「……おはようございます、姫様、ロウです。
お迎えに上がりました。」
ロザリンは胸が温かくなるのを感じた。
「……おはよう、ロウ。」
声が少しだけ柔らかくなる。
ロザリン自身が気づくほどに。
ロウは一瞬だけ目を伏せ、静かに微笑んだ。
「……昨日のこと…… 少しだけ、
お話しできればと思っていました。」
ロザリンは胸の奥がふわりと揺れた。
「……ええ。 私も……ロウと話したかったわ。」
護衛と姫。いつもの朝。
でも── 二人の距離は、もう昨日までとは違っていた。
しばらくして、 ロザリンが小さく口を開いた。
「……ロウ。 政略結婚のこと…… どうすれば止められるのかしら。」
ロウは歩みを緩め、ロザリンの横顔を見つめた。
「……姫様。
まずは“根拠”を確かめる必要があります。」
「根拠……?」
ロウは頷く。
「はい。 宰相が“姫様の結婚を急ぐ理由”として王宮の記録庫に保管されている文書を根拠にしている可能性があります。」
ロザリンは息を呑んだ。
「……その文書が本当に正しいのか、確かめる必要があるのね。」
「はい。 もし宰相が勝手に書き換えていたり、
本来の文書を隠しているなら……
政略結婚の正当性は崩れます。」
ロザリンは、 ロウを見上げた。
「……ロウ。 記録庫は…… 私たちだけで入れるの?」
ロウは少しだけ考え、静かに答えた。
「……昼間は難しいですが…… 朝のうちなら、
管理官が席を外す時間があります。」
ロザリンの瞳が揺れた。
「……じゃあ…… 今なら……?」
ロウは頷いた。
「はい。 姫様が望むなら…… 今すぐ向かえます。」
ロザリンは胸の奥が熱くなるのを感じた。
(……ロウと一緒なら…… 私は……動ける……)
ロザリンは小さく息を吸い、決意を込めて言った。
「……行きましょう、ロウ。記録庫へ。」
ロウは深く頷いた。
「……はい。 姫様と共に。」
二人は部屋を出て、歩き出す。
まだ戦いではない。 まだ対立でもない。
でも── 政略結婚を止めるための
“最初の具体的な一歩”が、
今、踏み出された。




