第81話 「裏庭での待ち合わせ」
夜の城は静かで、
風の音だけが遠くで揺れていた。
ロザリンは自室に戻ろうとしたところで、
扉の下に挟まれた小さな紙片に気づいた。
拾い上げると、 そこには見覚えのある筆跡で短く書かれていた。
『裏庭の大きな樹のところへ。
今夜、少しだけ……お話があります。 ロウ』
ロザリンは息を止めた。
(……裏庭…… あのときの……)
13歳のロウと、11歳の自分。
泣いていた自分に、 静かに声をかけてくれた少年。
あの場所。
胸の奥が、 ゆっくりと熱を帯びていく。
ロザリンは紙片を握りしめ、
裏庭へ向かった。
月明かりに照らされた大きな樹の下に、
ロウはすでに立っていた。
ロザリンが近づくと、 ロウは深く頭を下げた。
「……姫様。
お越しいただき、ありがとうございます。」
ロザリンは胸の奥がざわつくのを感じた。
「……ロウ。 どうして……ここなの?」
ロウはゆっくりと顔を上げ、
ロザリンをまっすぐに見つめた。
「……姫様と初めて会った場所だからです。」
ロザリンは息を呑んだ。
ロウは一歩、前へ。
「……姫様。」
声は震えていない。
ただ、深い決意だけが宿っていた。
「……初めてお会いした、 あの頃から……
私は姫様をお慕いしていました。」
ロザリンの瞳が揺れる。
ロウは続ける。
「泣いていた姫様が、それでも強くあろうとしていた姿が…… 忘れられませんでした。」
ロザリンは胸に手を当てた。
ロウはさらに一歩近づく。
触れられない距離で止まる。
「……姫様の結婚が迫っていると聞いて……
私は……
どうしても言わなければならないと思いました。」
ロザリンは小さく息を呑む。
ロウは拳を握りしめた。
「……失いたくありません。 姫様を……
誰かに奪われる未来を…… 私は耐えられません。」
ロザリンの瞳が潤む。
ロウは胸に手を当て、
静かに、しかし確かに言った。
「……自分のためにも…… 姫様に想いを伝えたかった。 そして……
いつまでも姫様をお守りしたいです。」
ロザリンはゆっくりと目を閉じ、
震える息を吐いた。
「……ロウ。」
ロウは息を呑む。
ロザリンは一歩、ロウに近づいた。
「……私も……あのとき、
あなたが……
泣いていた私に声をかけてくれたのを、今でも 覚えてるわ。
姫ではなく、自分を見てくれたようで嬉しかった。」
ロウの瞳が揺れる。
ロザリンは続ける。
「森で再会したとき……
“僕の命は……あなたと共にある”って誓ってくれたでしょ?……本当に嬉しかった。」
ロザリンは胸に手を当て、 静かに微笑んだ。
「……ロウ。 私も……あなたが好き。」
ロウの目が大きく見開かれる。
ロザリンは一歩近づき、 触れられそうで触れない距離で止まった。
「……あなたが守りたいと言ってくれるなら……
私は……あなたの隣にいたい。」
ロウは震える声で答えた。
「……姫様…… ありがとうございます……」
ロザリンは小さく笑った。
「……ロウ。 これから……一緒に歩いていきましょう。」
ロウはロザリンに近づき、ゆっくりと抱き寄せた。
その瞳には涙の光が宿っていた。




