第70話 従わない理由=胸の奥の“気づき”
医務室を出たあと、
ロザリンはしばらく廊下を歩いていた。
宰相の言葉が、
まだ胸の奥に重く残っている。
「……従わない理由を示せ……?」
その言葉は、
脅しではなく“条件”として突きつけられたものだった。
従わない理由。
国が納得する理由。
王が認めざるを得ない理由。
(……そんなもの……
どこにあるの……?)
ロザリンは歩きながら、
胸の奥がじんと痛むのを感じた。
廊下の窓から差し込む光が、
床に淡い影を落としている。
その影を見つめながら、
ロザリンはふと立ち止まった。
(……ロウ……)
医務室で見たロウの姿が、
静かに浮かんでくる。
昨日よりも確かに強くなった足。
震えながらも前へ進もうとする背中。
自分のために立ち上がろうとする姿。
そして──
あの言葉。
『……姫様の……
お側に戻るためです。』
胸の奥が、
きゅっと締めつけられた。
(……どうして……
こんなに……)
ロザリンは胸に手を当てた。
(……どうして……
ロウの言葉で……
こんなに苦しくなるの……?)
歩き出そうとした足が、
ふいに止まった。
(……従わない理由……
そんなの……)
胸の奥に、
静かにひとつの答えが浮かんだ。
(……私……
ロウのこと……)
言葉にならない。
けれど、
胸の奥で確かに形を持ち始めた。
ロザリンは息を吸い、
その気持ちを胸の奥にそっとしまった。
(……これは……
誰にも言えない……
でも……
これが“理由”になる……)
ロザリンは医務室へ戻るために歩き出した。
扉を開けると、
ロウがこちらを見た。
「……姫様?
お顔が……」
ロザリンは首を振った。
「大丈夫。
ちょっと……考え事をしてただけ。」
ロウは心配そうに眉を寄せたが、
それ以上は聞かなかった。
ロザリンはロウの姿を見つめ、
胸の奥で静かに思った。
(……従わない理由……
私は……
もう見つけたから……)
けれど、
それを言葉にするつもりはなかった。
ただ、
今は胸の奥にそっとしまったまま。




