第67話 揺れる足と、揺れない意志
医務室の窓から差し込む光が、
床に淡い影を落としていた。
ロウはベッドの縁に腰を下ろし、
ゆっくりと呼吸を整えていた。
ロザリンはそばの椅子に座り、
その様子を静かに見守っている。
「……ロウ。
今日は、どう?」
ロウは一度深く息を吸い、
慎重に言葉を紡いだ。
「……はい。
昨日より……体に力が入る気がします。」
ロザリンは小さく頷いた。
「無理はしないでね。
でも……試してみる?」
ロウは視線を落とし、
布団の端をそっと握った。
「……はい。
立てるかどうか……
確かめてみたいです。」
その声は弱くない。
けれど、慎重さが滲んでいる。
ロザリンはそっとロウの腕に手を添えた。
「支えるから。
ゆっくりでいいよ。」
ロウはゆっくりと足を床に下ろした。
足裏に触れる冷たさが、
久しぶりの感覚として伝わる。
(……大丈夫……
焦らず……)
ロウは息を整え、
両手でベッドの縁を掴んだ。
そして──
ゆっくりと、身体を持ち上げた。
足がわずかに震える。
痛みではない。
ただ、長く使っていなかった筋肉が
“思い出そうとしている”震え。
ロザリンは息を呑んだ。
「……ロウ……!」
ロウは呼吸を整えながら、
静かに答えた。
「……大丈夫です……
立てています……姫様。」
その声は、
昨日までにはなかった“芯”を持っていた。
ロザリンはロウの腕を支えながら、
そっと微笑んだ。
「……すごいよ。
本当に……立てた。」
ロウはわずかに目を伏せ、
静かに息を吐いた。
「……姫様の……
おそばに戻るためです。」
その言葉は、
決意でも、誓いでもなく、
ただの“事実”のように静かだった。
ロザリンの胸が、
きゅっと締めつけられる。
「……戻ってきてね。
ちゃんと。」
ロウはゆっくりと頷いた。
「……はい。
必ず……」
足はまだ震えている。
けれど、
その意志は揺れていなかった。
医務室の静けさの中で、
ロウは初めて“自分の足で立つ”ことを取り戻した.
ロザリンは静かに見守っていた。




