第62話 城内の空気が変わる
朝の光が医務室に差し込む頃。
ロウはゆっくりと、
ロザリンの目を見つめて言った。
「……ひめ……さま……
おはよう……ございます……」
ロザリンは微笑んだ。
「おはよう、ロウ。
痛みは……?」
ロウは小さく首を振った。
「……だいじょうぶ……です……
ひめ……さまが……いるから……」
ロザリンの胸が温かくなる。
その時、
医務室の扉がノックされた。
入ってきたのは、
いつも姫に仕えていた侍女・ミレイユ。
だが──
その表情はどこか硬い。
「姫様……朝食をお持ちしました」
ロザリンは微笑んだ。
「ありがとう、ミレイユ。
そこに置いてくれる?」
ミレイユは頷いたが、
ロウの方を見ようとしない。
(……あれ……?
いつもならロウの容態を気にしてくれるのに……)
ロザリンは胸の奥に
小さな違和感を覚えた。
ミレイユは食器を置くと、
深く頭を下げた。
「失礼いたします……」
その声は、
どこか“距離”を置いているように聞こえた。
扉が閉まる。
ロザリンは小さく息を吐いた。
「……ミレイユ、
なんだか……よそよそしかったわね」
ロウは弱い声で言った。
「……ひめ……さま……
きのう……の……
ごこんやく……の……はなしが……?」
ロザリンは目を伏せた。
(……そうか……
城の中で、
私の“噂”が広まり始めている……)
昼頃、
ロザリンは医務室の外に出た。
廊下には兵士が二名立っている。
いつもと同じ配置。
ロザリンは歩き出した。
兵士たちは動かない。
だが、
その視線は背中に刺さるようだった。
ロザリンは胸の奥がざわつくのを感じた。
医務室に戻ると、
ロウが不安そうにこちらを見た。
「……ひめ……さま……
そと……どう……でした……?」
ロザリンはロウの手を握り、
静かに言った。
「……兵士の視線が……
なんだか……違ったの。……」
ロウは息を整えながら、
ゆっくりと言葉を絞り出した。
「……さいしょうが……
また…うごき……
はじめた……
かもしれ……ません。」
ロザリンは目を見開いた。
ロウは小さく頷いた。
「……ひめ……さまが……
ごこんやく……を……
はっきり……ことわった……
その……えいきょうです。」
ロザリンは唇を噛んだ。
(……私の拒絶が……
城の空気を変え始めている……)
ロザリンは窓の外を見つめた。
城の庭はいつも通り静か。
鳥の声も聞こえる。
でも──
空気だけが違う。
「ロウ……
私……
このままじゃ……
父上の病状にも近づけないかもしれない……」
ロウは弱い声で返した。
「……ひめ……さま……
まだ……
きめつけ……ないで……
ください。」
ロザリンはロウを見つめた。
ロウの目は弱い光を宿しながらも、
確かに“姫を支えよう”としていた。
(……ロウ……
あなたは……
こんなに弱っているのに……
私の心を支えてくれる……)
ロザリンはロウの手を握り返した。
「ありがとう、ロウ。
あなたがいてくれるだけで……
私は前に進めるわ」
ロウの胸が震えた。




