第59話 姫の涙の再会
医務室の空気は、
張りつめたまま動かなかった。
扉の外には兵士。
誰も味方はいない。
けれど──
ロウの指は、
確かにロザリンの手を握り返していた。
その“かすかな反応”だけが、
ロザリンの心を支えていた。
夕方。
窓から差し込む光が赤く染まり始めた頃。
ロザリンはロウの頬に触れ、
静かに囁いた。
「ロウ……
もう一度……
私の声を……聞いて……」
その瞬間。
ロウの呼吸が、
ふっと深くなった。
ロザリンは息を呑んだ。
「……ロウ……?」
ロウの眉が、
かすかに寄る。
まるで、
痛みを思い出したように。
ロザリンは震える声で続けた。
「ロウ……
戻ってきて……
お願い……」
ロウの指が、
ロザリンの手を弱く握り返した。
ロザリンは立ち上がり、
ロウの顔を覗き込んだ。
ロウのまぶたが──
ほんのわずかに震えた。
「ロウ……!
聞こえるの……?」
ロザリンの声に反応するように、
ロウのまつげが揺れ、
ゆっくりと、ゆっくりと──
閉ざされていた瞳が開いた。
薄い光が、
ロザリンの姿を映す。
焦点は合っていない。
まだ夢の中のような目。
それでも──
ロザリンを探すように動いた。
ロザリンは口元を押さえ、
涙が溢れた。
「ロウ……
ロウ……!
目を……開けたのね……!」
ロウはかすかに唇を動かした。
声にならない。
けれど、
確かにロザリンを呼ぼうとしていた。
ロザリンはロウの頬に手を添え、
震える声で言った。
「ここにいるわ……
ずっと……
あなたの側にいたの……」
ロウの視線が、
ゆっくりとロザリンに焦点を合わせた。
そして──
かすれた声で、
「……ひ……め……さま……」
ロザリンは堪えきれず、
ロウの胸に顔を埋めた。
「ロウ……!
生きてて……よかった……
本当に……よかった……!」
ロウは弱い力で、
ロザリンの肩に触れた。
その手は震えていたが、
確かに“ロザリンを抱き寄せよう”としていた。
ロザリンが顔を上げると、
ロウはゆっくりと口を開いた。
「……ひめ……さま……
……ない……て……る……?」
ロザリンは涙を拭い、
微笑んだ。
「泣くわよ……
あなたが……
やっと戻ってきてくれたんだもの……」
ロウは弱く息を吐き、
その瞳に安堵の色を浮かべた。
「……よかった……
……ま……もれ……た……」
ロザリンは首を振った。
「あなたが……生きて戻ってきてくれた……
それが……一番大事なの……」
ロウの目が、
静かに揺れた。
その揺れは、
言葉にならない想いの証だった。
ロザリンはロウの手を握り、
その頬にそっと触れた。
ロウはゆっくりと、
ロザリンの手に頬を寄せた。
その表情は、
これまで見せたことのないほど
穏やかだった。
(……ロウ……
あなたが戻ってきてくれたなら……
私は……何だってできる……)
ロザリンの胸に、
静かで強い光が灯った。




