第57話 宰相の圧力強化/姫の“反撃の芽”
ロウが倒れて四日目。
医務室の空気は静かで、
ロザリンはロウの手を握ったまま、
ほとんど眠っていなかった。
ロウの呼吸は安定している。
でも、まだ目を開けない。
(……ロウ……
あなたが目を覚ますまで……
私はここにいる……)
その時──
扉が開き、兵士が入ってきた。
「姫様。
本日より“王家の務め”のため、
執務室へお戻りいただくよう
宰相閣下より命が──」
ロザリンは振り返った。
「行きません」
兵士は困惑した。
「で、ですが……
宰相閣下の命令で──」
ロザリンは静かに、しかし強く言った。
「宰相の命令より、
私の意志の方が下だと言うの?」
兵士は息を呑んだ。
「……い、いえ……
その……」
ロザリンは立ち上がり、
兵士の目をまっすぐ見つめた。
「私は王家の姫よ。
宰相よりも“上”の立場。
それなのに──
どうして宰相の命令が優先されるの?」
兵士は答えられなかった。
ロザリンは続けた。
「宰相閣下の命令です、って……
それはつまり、
“姫の命令より宰相の命令の方が偉い”
と言っているのと同じよ」
兵士の顔が青ざめた。
「そ、それは……
陛下がご病気で……
政治の判断は宰相閣下が……」
ロザリンは胸が痛くなった。
(……お父様が弱っているから……
宰相が……
“王の代わり”を名乗っている……)
ロザリンは震える声で言った。
「……お父様が弱っているのを、
宰相は利用しているのね」
兵士は沈黙した。
ロザリンはロウの手を握り直した。
「私はここを離れない。
ロウを守るのは……私の意志よ」
兵士は頭を下げ、
扉の外へ下がった。
しかし──
扉の外には、
さらに多くの兵士が配置されていた。
ロザリンは気づいた。
(……私の行動を……
本気で制限している……)
胸が冷たくなる。
その頃、宰相の執務室。
侍従が報告した。
「姫様は……
宰相閣下の命令に従われませんでした……」
宰相は静かに目を閉じた。
「……姫様は、
“自分の立場”に気づき始めたか」
侍従は震えた。
「ど、どうされますか……?」
宰相は机に指を置き、
軽く叩いた。
コツ、コツ。
「姫様の“自由”をさらに制限する。
王家の務めを理由に、
“外出禁止”を正式に布告する」
侍従は息を呑んだ。
「そ、それでは……
姫様が……」
宰相は微笑んだ。
「姫様には“政治の現実”を
理解していただく必要がある」
その笑みは穏やかだが、
底に冷たい刃があった。
ロザリンは、
扉の外に増えた兵士たちのいる方を見つめた。
(……宰相は……
本気で私を閉じ込めるつもり……)
胸がざわつく。
その時──
ロウの指が、
またわずかに動いた。
ロザリンは息を呑んだ。
「ロウ……?
聞こえる……?」
ロウの眉が、
かすかに寄った。
ロザリンはロウの手を握りしめた。
「ロウ……
宰相は……
私たちを引き離そうとしてる……
でも……私は負けない」
ロザリンの瞳に、
強い光が宿った。
(……宰相の命令が姫より偉いなんて……
そんな歪み……
絶対に正す……)
ロザリンは静かに呟いた。
「ロウ……
あなたが目を覚ましたら……
一緒に戦うわ」
その声は震えていたが、
決意は揺らがなかった。
しかし、姫の反撃の芽は、
同時に宰相の“次の策”を呼び寄せていた。




