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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: 月野雫


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第55話 宰相の次の策

ロウの治療が終わってから、


ロザリンは一度も医務室を離れなかった。


夜が明けても、


朝日が差し込んでも、


ロザリンはロウの手を握ったまま。


まるで自分の呼吸よりも、


彼の呼吸を優先するよに、一度も席を立たなかった。


「……大丈夫。ここにいるから」


その小さな呟きは、


自分自身に言い聞かせるようでもあった。


(……ロウ……


あなたが目を開けるまで……


私はここにいる……)


ロウの呼吸は安定していたが、


意識はまだ戻らない。


はその顔を見つめながら、


静かに呟いた。


「……絶対に……守るから……」


その時だった。


扉がノックされ、


侍従が入ってきた。


「姫様……宰相閣下がお呼びです」


ロザリンの胸がざわついた。


(……宰相……


今は会いたくない……)


「行きません」


ロザリンは即答した。


侍従は困ったように言う。


「で、ですが……


“至急”とのことで……」


ロザリンはロウの手を握り直した。


「私はここを離れない。


ロウが目を覚ますまで」


侍従はそれ以上言えず、


頭を下げて退室した。


その頃、宰相の執務室。


ヴァルガ宰相は侍従の報告を聞き、


静かに目を閉じた。


「……姫様は来られない、か」


侍従が震える声で言う。


「は、はい……


ロウ殿の側を離れないと……」


宰相は机に指を置き、


軽く叩いた。


コツ、コツ。


「……姫様の行動が、


“政治の妨げ”になり始めている」


侍従は息を呑んだ。


宰相は続ける。


「姫様には“姫としての務め”を


思い出していただかねばならない」


その声は穏やかだったが、


底に冷たい刃があった。


昼過ぎ。


ロザリンが医務室でロウの手を握っていると、


突然、複数の侍女と兵士が入ってきた。


「姫様……


申し訳ございません……」


ロザリンは眉をひそめた。


「何をしているの?」


侍女は震えながら言った。


「宰相閣下のご命令で……


“姫様をお部屋へお戻しするように”と……」


ロザリンは立ち上がった。


「嫌よ。


私はここにいる」


兵士たちは困惑しながらも、


宰相の命令には逆らえない。


「姫様……


どうか……」


ロザリンは一歩も引かなかった。


「ロウを置いて行けと言うの?


そんなこと……できない」


侍女たちは顔を見合わせた。


その時、


兵士の一人が静かに言った。


「姫様……


宰相閣下は“姫様の安全のため”と……」


ロザリンは怒りを抑えきれなかった。


「安全?


ロウを殺そうとした人が……


私の安全を語るの?」


兵士たちは息を呑んだ。


ロザリンは続けた。


「私は……


ロウの側を離れない」


その瞳は強く、


揺らぎがなかった。


しかし──


兵士たちは動かなかったが、


“扉の外に立ち続けた”。


ロザリンは気づいた。


(……監視……?)


胸が冷たくなる。


その頃、宰相は静かに書類を整理していた。


「姫様は……


ロウ殿の側を離れないか」


侍従が頷く。


「はい……


兵士を配置しましたが……


姫様は強く拒まれ……」


宰相は微笑んだ。


「ならば──


“姫様の行動範囲”を


こちらで決めるしかない」


侍従は震えた。


「……行動範囲……?」


宰相は静かに言った。


「姫様には、


“王家の務め”を果たしていただく。


そのために──


“自由”は制限させてもらう」


その声は穏やかで、


しかし冷酷だった。


医務室に戻ったロザリンは、


扉の外に立つ兵士たちを見つめた。


胸がざわつく。


(……ロウ……


あなたを守るために……


私は……どうすれば……)


ロウの手を握り、


ロザリンは静かに呟いた。


「……宰相に……


負けない……」


その瞳には、恐れと、


そして強い決意が宿っていた。

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