第54話 ロウの治療/姫の側を離れない決意
ロウは担架に乗せられ、
医務室へ運ばれていった。
ロザリンはその横を、
まるで倒れそうな足取りでついていく。
(……ロウ……
どうか……どうか……)
ロウの脇腹からは、
まだ血が滲んでいた。
医師たちが慌ただしく動き、
治療の準備を始める。
「姫様、危険です。
治療の間は外へ──」
「嫌よ」
ロザリンは即座に言った。
医師たちは驚いたが、
姫の瞳の強さに言葉を失った。
「私はここにいる。
ロウのそばを離れない」
その声は震えていたが、
決意は揺らがなかった。
医師がロウの服を切り開くと、
深い傷が露わになった。
「……これは……
かなり深い……!」
「出血が多すぎる……!」
ロザリンは唇を噛んだ。
(……宰相……
あなたが……ロウを……)
ロウは意識が朦朧としていた。
「……ひ……め……
……さま……」
その声は、
今にも消えそうだった。
ロザリンはロウの手を握った。
「ここにいるわ……
ロウ……
私は……ここよ……」
ロウの指が、
かすかにロザリンの手を握り返した。
(……ロウ……
生きて……お願い……)
医師が声を上げた。
「姫様、手を離していただければ──」
「離さない」
ロザリンは静かに言った。
「ロウは……
私が守るの」
医師たちはそれ以上言えなかった。
治療が進む中、
ロウは意識の底で揺れていた。
暗闇。
冷たい空気。
痛み。
その中で──
一つだけ温かいものがあった。
(……姫様……?)
手。
ロザリンの手。
(……姫様……
泣かないで……)
ロウは声にならない声で、
必死にその手を握り返した。
治療が終わり、
ロウは深い眠りについた。
医師が言った。
「命は……助かりました。
ただ、しばらくは意識が戻らないかもしれません」
ロザリンは静かに頷いた。
「……ありがとう」
医師たちが部屋を出ていく。
ロザリンは椅子を引き寄せ、
ロウの枕元に座った。
そして──
その手を、そっと握った。
「ロウ……
あなたを……失わない」
涙が落ちる。
「宰相が何を企んでいても……
お父様が弱っていても……
誰が何と言っても……
私は……あなたの側にいる」
ロザリンはロウの頬に触れた。
「あなたが……
私を守ってくれたように……
今度は私が……あなたを守る」
その瞳には、
一人の女性ではなく、
“姫”としての強い意志が宿っていた。
その頃。
医務室の外の暗がりで、
ヴァルガ宰相は静かに立っていた。
扉の隙間から、
ロザリンがロウの手を握り、
涙を落としている姿が見える。
宰相は目を細めた。
(……姫様……
そこまでロウに……)
そして静かに呟いた。
「……ならば──
姫様の“自由”を奪うしかない」
ロウを救った姫の決意は、
同時に宰相の“次の一手”を呼び寄せていた。




