第52話 旧薬庫での戦い
地下へ続く階段を降りた瞬間から、
空気は冷たく、湿っていた。
ロウは剣に手を添えながら、
薄暗い通路を進んでいく。
(……宰相閣下……
ここで俺を“消す”つもりか)
足音が響くたび、
胸の奥の警戒心が強くなる。
旧薬庫は、
王城の中でも最も人が寄りつかない場所。
そして──
宰相が自由に動ける“闇”の領域。
ロウは息を整えた。
(……姫様……
必ず戻る……)
その瞬間だった。
闇の奥から、
複数の影がゆっくりと現れた。
「……ロウ殿。
ここで会うとはな」
ロウは剣を抜いた。
「宰相閣下の命か」
私兵の一人が笑った。
「さあな。
ただ──
“お前を通すな”とは言われている」
ロウは構えを低くした。
(……やはり……
俺を排除する気だ)
次の瞬間、
私兵たちが一斉に襲いかかってきた。
金属がぶつかる音が、
地下に響き渡る。
ロウは素早く一人の剣を弾き、
逆に切り返す。
(……数が多い……
だが……負けられない)
二人目の攻撃をかわし、
三人目の腕を蹴り飛ばす。
しかし──
敵はまだいる。
旧薬庫の奥から、
さらに数人が現れた。
ロウは息を荒げながらも、
剣を握り直した。
(……姫様のために……
ここで倒れるわけには……)
だが──
その時。
背後から、
冷たい気配が迫った。
「……!」
振り返るより早く、
鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
脇腹に深い切り傷。
血が溢れ、服を濡らす。
(……しまった……
背後……)
私兵が嘲笑う。
「ロウ殿でも、
多勢に無勢じゃどうにもならんか」
ロウは膝をつきかけたが、
必死に踏みとどまった。
(……倒れられない……
姫様が……
俺を待っている……)
しかし、
視界が揺れる。
血が滴り落ちる。
敵が再び迫る。
その頃──
ロザリンは地下の扉を叩き続けていた。
「ロウ!!
返事して!!
ロウ!!」
涙が頬を伝う。
(……ロウ……
どうか……無事でいて……)
その時、
扉の向こうから微かな金属音が聞こえた。
「……戦ってる……
ロウが……!」
ロザリンは震える手で扉の取っ手を掴んだ。
「開けて……
お願い……開いて……!」
しかし扉はびくともしない。
ロザリンは叫んだ。
「ロウ!!
死なないで!!
お願い!!」
ロウは血を流しながら、
剣を支えに立ち上がった。
(……姫様の声……?
聞こえた……?)
遠くから、
確かにロザリンの叫びが響いた。
「ロウ!!
ロウ!!」
ロウの胸が熱くなる。
(……姫様……
俺は……
あなたを……)
ロウは剣を握り直した。
「……まだ……倒れられない……」
私兵たちが一斉に襲いかかる。
ロウは最後の力を振り絞り、
剣を振るった。
しかし──
傷は深く、
体は限界だった。
視界が暗くなる。
(……姫様……
ごめん……)
ロウの体が、
ゆっくりと床に倒れた。
その瞬間、
階段の上に立つ影があった。
ヴァルガ宰相。
「……ロウ。
これで終わりだ」
宰相は静かに微笑んだ。
「姫様の前から消えてもらう」
ロウの意識は、
そこで途切れた。




