第50話 姫とロウの密談
父の部屋を出たあと、
ロザリンは胸の奥がずっと痛かった。
(……お父様……あんなに弱って……
それでも……
私に何か伝えようとして……)
「……ロ……ザ……
……き……」
あのかすれた声が、
耳から離れない。
(……宰相が……
お父様の言葉を……遮った……)
胸が締めつけられる。
(……ロウ……
あなたに……会いたい……)
その瞬間、
背後から静かな声がした。
「姫様」
ロザリンは振り返った。
そこに──
ロウがいた。
「ロウ……!
どうして……」
ロウは深く頭を下げた。
「……宰相閣下の命令で、別任務に就いていましたが……姫様のご様子が気になり……
戻ってきてしまいました」
ロザリンの胸が熱くなる。
(……ロウ……あなた……
私のために……)
ロウは続けた。
「……叱責は覚悟しています。
ですが……
姫様を一人にしておけませんでした」
ロザリンは思わず一歩近づいた。
「ロウ……
ありがとう……」
その声は震えていた。
ロウは周囲を確認し、
ロザリンを人気のない回廊へ誘導した。
「……姫様。
宰相閣下が……何かを隠しています」
ロザリンは息を呑んだ。
「……やっぱり……
ロウも……そう思うの……?」
ロウは頷く。
「陛下のご病状……
あれは“自然な病”ではありません」
ロザリンの胸が強く揺れた。
(……ロウ……
あなたも……気づいていた……)
ロウは続けた。
「宰相閣下は……姫様と陛下を、
“分断”しようとしているように見えます」
ロザリンは唇を噛んだ。
「……お父様は……
何か言おうとしていたの……
でも……宰相が……遮ったの……」
ロウの目が鋭くなる。
「……宰相閣下は、陛下の言葉を“恐れている”のかもしれません」
ロザリンは震えた声で言った。
「ロウ……
どうしたら……
宰相の影を……突破できるの……?」
ロウは少しだけ迷い、
しかし決意を込めて言った。
「……姫様。
“証拠”を探しましょう」
ロザリンは目を見開いた。
「証拠……?」
ロウは頷く。
「宰相閣下が陛下に何をしているのか。
どんな薬を使っているのか。
誰が出入りしているのか。
それを掴めば──
宰相閣下の力を削げます」
ロザリンの胸が熱くなる。
(……ロウ……あなたは……
私と一緒に……戦ってくれる……)
ロザリンは小さく頷いた。
「……ロウ……
一緒に……探しましょう」
ロウの瞳が揺れた。
「……姫様……
危険です。
宰相閣下は……容赦しません」
ロザリンは一歩近づき、
ロウの目をまっすぐ見つめた。
「……ロウがいない方が……
もっと……危険よ」
ロウの胸が強く痛んだ。
ロウは深く息を吸い、
静かに頷いた。
「……分かりました。
姫様。
私は……あなたと共に動きます」
ロザリンの胸が熱くなる。
(……ロウ……
あなたとなら……
宰相の影を……越えられる……)
二人が密談を終え、
回廊を歩き出したその瞬間。
廊下の奥で、
ヴァルガ宰相が静かに立っていた。
笑っている。
しかし、その目は笑っていない。
(……姫様……ロウ……
あなたたちは……
“越えてはならない線”を越えようとしている)
宰相は静かに呟いた。
「……そろそろ……
次の手を打つ頃合いか」
二人の密談は、
すでに宰相の影に触れていた。




