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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: Erika


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第49話 父の言葉が遮られる

父の部屋を出たあとも、


ロザリンの胸はずっと痛かった。


(……お父様……あんなに弱って……


それでも……


私に何か言おうとして……)


父の震える手の感触が、


まだ指先に残っている。


(……ロウ……


あなたがいないと……


私……どうしていいか分からない……)


その時だった。


「姫様。


宰相閣下がお呼びです」


侍従の声に、


ロザリンの胸がざわついた。


(……また……?


今は……会いたくない……)


でも、行かないわけにはいかない。


宰相の執務室。


ヴァルガ宰相は、


いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。


「姫様。


国王陛下とのご面会、いかがでしたか」


ロザリンは胸が痛んだ。


「……お父様は……


とても……弱っていました」


宰相は静かに頷く。


「ええ。


陛下は長らくご体調が優れません。


だからこそ──


姫様には“正しい判断”をしていただかねばなりません」


ロザリンは眉をひそめた。


(……正しい判断……?


また……政略結婚の話……?)


宰相は続ける。


「陛下は……


“姫様の幸せを願っておられる”のです」


ロザリンの胸が揺れた。


(……お父様……


何か言おうとして……


でも……言えなくて……)


その瞬間──


ロザリンの脳裏に、


父のかすれた声が蘇った。


(……あれは……


私に……何を伝えようと……)


ロザリンが口を開きかけた、その時。


「姫様。 陛下は“正しいお気持ち”をお持ちです」


ロザリンは息を呑んだ。


(……正しい……気持ち……?)


宰相は穏やかな笑みを崩さない。


「姫様が迷われぬよう、 陛下は“正しい道”を望んでおられるのです」


胸の奥がざわつく。


その言葉は、どうしても父の姿と結びつかなかった。


(……違う…… お父様は……そんなふうに……)


病床で聞いた父の声は、 もっと弱く、もっと切実で、 “正しさ”などという硬い響きとは程遠かった。


ロザリンは震える声で言った。


「宰相…… お父様は……そんなこと……言っていません」


宰相は、ロザリンの否定を受けても微笑を崩さなかった。


「姫様。陛下は、国の未来を案じておられました。 そのお気持ちは、決して揺らぐものではございません」


ロザリンは首を振る。


「 今お父様は……そんな強い言葉を使うような状態では……」


病室で見た父の姿が胸に浮かぶ。


あのときの父は、国の行く末よりも、 ただ娘の手を求めるように、弱く、静かに息をしていた。


宰相は一歩近づき、声を落とした。


「姫様。陛下は“正しい道”を選ばれたのです。 それをお伝えするのが、私の務めでございます」


その“正しい”という響きが、 ロザリンの胸に重く沈む。


(……違う…… お父様は……そんなふうに、誰かに“正しさ”を託すような人じゃない……)


喉の奥が震え、言葉がうまく出てこない。


「宰相…… お父様は……本当に……そんなこと、言っていません」


宰相の微笑は、まるで仮面のように動かなかった。


そのとき、


父の部屋から、かすかな声が


「……ロ…………ザ……」


ロザリンは息を呑んだ。


(……お父様……!?)


宰相の目が細くなる。


「……姫様。


陛下はお休みの時間です。


行かれるのはお控えください」


ロザリンは宰相を睨んだ。


「行きます」


宰相の笑みが消えた。


「……姫様」


「お父様が呼んでいるのに、


どうして止めるの」


宰相は一瞬だけ沈黙した。


(……姫様……


ここまで反発されるとは……)


だが、すぐに穏やかな声に戻る。


「姫様。


陛下は混乱しておられるのです。


“正しい気持ち”をお持ちいただくためにも──」


「その言葉……


お父様は一度も言っていないわ」


宰相の目が細くなった。


(……姫様……


気づき始めたか)


ロザリンは宰相を振り切り、


父の部屋へ向かった。


父は苦しそうに息をしながら、


ロザリンの方へ手を伸ばしていた。


「……ロ……ザ……リ…」


ロザリンは駆け寄る。


「お父様……!」


父は必死に言葉を紡ごうとする。


「……き…………も……


……ち……」


ロザリンは涙をこぼした。


(……お父様……


何か……伝えようとして……)


その瞬間──


「姫様。


陛下はお疲れです。


これ以上の会話はお控えください」


宰相が後ろから割って入った。


ロザリンは振り返る。


「宰相……今の言葉……


遮らないで……!」


宰相は微笑んだ。


「姫様。


陛下が仰りたいことは、


“正しい気持ちを持ちなさい”ということです」


ロザリンは震えた。


(……違う……


お父様は……


そんなこと……言ってない……)


父は苦しそうに、


もう一度だけ声を絞り出した。


「……ロ……ザ……


……き……」


ロザリンは父の手を握った。


(……“好き”……?


違う……でも……


何か大事なことを……)


ロザリンは涙をこぼした。


(……宰相……あなたは……


お父様の言葉を……奪っている……)


その瞬間、


ロザリンの中で何かが決定的に変わった。


第50話  姫とロウの密談


父の部屋を出たあと、


ロザリンは胸の奥がずっと痛かった。


(……お父様……あんなに弱って……


それでも……


私に何か伝えようとして……)


「……ロ……ザ……


……き……」


あのかすれた声が、


耳から離れない。


(……宰相が……


お父様の言葉を……遮った……)


胸が締めつけられる。


(……ロウ……


あなたに……会いたい……)


その瞬間、


背後から静かな声がした。


「姫様」


ロザリンは振り返った。


そこに──


ロウがいた。


「ロウ……!


どうして……」


ロウは深く頭を下げた。


「……宰相閣下の命令で、別任務に就いていましたが……姫様のご様子が気になり……


戻ってきてしまいました」


ロザリンの胸が熱くなる。


(……ロウ……あなた……


私のために……)


ロウは続けた。


「……叱責は覚悟しています。


ですが……


姫様を一人にしておけませんでした」


ロザリンは思わず一歩近づいた。


「ロウ……


ありがとう……」


その声は震えていた。


ロウは周囲を確認し、


ロザリンを人気のない回廊へ誘導した。


「……姫様。


宰相閣下が……何かを隠しています」


ロザリンは息を呑んだ。


「……やっぱり……


ロウも……そう思うの……?」


ロウは頷く。


「陛下のご病状……


あれは“自然な病”ではありません」


ロザリンの胸が強く揺れた。


(……ロウ……


あなたも……気づいていた……)


ロウは続けた。


「宰相閣下は……姫様と陛下を、


“分断”しようとしているように見えます」


ロザリンは唇を噛んだ。


「……お父様は……


何か言おうとしていたの……


でも……宰相が……遮ったの……」


ロウの目が鋭くなる。


「……宰相閣下は、陛下の言葉を“恐れている”のかもしれません」


ロザリンは震えた声で言った。


「ロウ……


どうしたら……


宰相の影を……突破できるの……?」


ロウは少しだけ迷い、


しかし決意を込めて言った。


「……姫様。


“証拠”を探しましょう」


ロザリンは目を見開いた。


「証拠……?」


ロウは頷く。


「宰相閣下が陛下に何をしているのか。


どんな薬を使っているのか。


誰が出入りしているのか。


それを掴めば──


宰相閣下の力を削げます」


ロザリンの胸が熱くなる。


(……ロウ……あなたは……


私と一緒に……戦ってくれる……)


ロザリンは小さく頷いた。


「……ロウ……


一緒に……探しましょう」


ロウの瞳が揺れた。


「……姫様……


危険です。


宰相閣下は……容赦しません」


ロザリンは一歩近づき、


ロウの目をまっすぐ見つめた。


「……ロウがいない方が……


もっと……危険よ」


ロウの胸が強く痛んだ。


ロウは深く息を吸い、


静かに頷いた。


「……分かりました。


姫様。


私は……あなたと共に動きます」


ロザリンの胸が熱くなる。


(……ロウ……


あなたとなら……


宰相の影を……越えられる……)


二人が密談を終え、


回廊を歩き出したその瞬間。


廊下の奥で、


ヴァルガ宰相が静かに立っていた。


笑っている。


しかし、その目は笑っていない。


(……姫様……ロウ……


あなたたちは……


“越えてはならない線”を越えようとしている)


宰相は静かに呟いた。


「……そろそろ……


次の手を打つ頃合いか」


二人の密談は、


すでに宰相の影に触れていた。







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