第48話 父との再会/弱さに触れ、恋が決定的に
宰相にロウを遠ざけられた翌日。
ロザリンは胸の奥に重い痛みを抱えたまま、
王城の静かな廊下を歩いていた。
(……ロウ……
今日も……いない……)
昨日まで当たり前だった気配が、
今日はどこにもない。
その“空白”が、
胸を締めつけた。
侍従が近づいてくる。
「姫様……国王陛下がお呼びです」
ロザリンは小さく息を呑んだ。
(……お父様……)
久しぶりの呼び出し。
胸がざわつく。
扉を開けると、
部屋は薄暗く、
薬草の匂いが漂っていた。
ベッドの上で、
父はゆっくりと呼吸していた。
以前より痩せ、
肌は青白く、
目を閉じたまま。
ロザリンは思わず駆け寄った。
「……お父様……!」
その声に反応して、
父のまぶたがゆっくりと震えた。
「……ロ……ザ……」
かすれた声。
言葉にならない。
ロザリンの胸が痛む。
(……まだ……こんなに……弱って……
宰相は……何を……)
父は手を伸ばそうとした。
震える、細い手。
ロザリンはその手をそっと握った。
「……お父様……
ごめんなさい……
来るのが……遅くなって……」
父は何か言おうとした。
でも声にならない。
「……む……
……ね……」
ロザリンは涙をこらえた。
(……こんなに……弱っているのに……
私の名前を呼ぼうとしてくれてる……)
父の指が、
ロザリンの手を弱く握り返した。
その力は、
あまりにも弱かった。
ロザリンは父の顔を見つめた。
(……お父様は……
こんなに弱っているのに……
私のことを心配して……
呼んでくれた……)
涙が頬を伝う。
(……私……
こんな時に……
ロウのことばかり考えて……
どうして……)
父は苦しそうに息をしながら、
ロザリンの手を離さない。
その“弱い優しさ”が、
ロザリンの胸を決定的に揺らした。
(……ロウがいないと……
私……
こんなふうに……壊れてしまう……)
父の弱さに触れた瞬間、
ロザリンは気づいてしまった。
(……私……
ロウが……
好き……
誰よりも……)
涙が止まらなかった。
部屋の外。
廊下の奥で、
ヴァルガ宰相は静かに立っていた。
扉の隙間から、
ロザリンが父の手を握り、
泣いている姿が見える。
(……姫様……
“誰か”を想って泣いている……)
宰相は目を細めた。
(……やはり……
ロウか)
確信に変わった。
そして宰相は、
静かに決意する。
(……ならば──
排除する)
姫の恋は、
父の弱さに触れたことで
決定的に形を持ち、
宰相の目の前で“政治の脅威”になった。




