第47話 ロウを遠ざける宰相/姫の初めての反発v
翌朝。
ロザリンは胸の奥にまだ残る痛みを抱えたまま、
王城の回廊を歩いていた。
(……ロウと離れたくない……
こんな気持ち……初めて……)
ロウはいつも通り後ろに控えている。
その気配だけで、胸が少しだけ落ち着く。
しかし──
その静けさは長く続かなかった。
侍従が駆け寄ってきた。
「姫様……宰相閣下より、
本日より護衛の配置を変更するとの通達が……」
ロザリンの足が止まった。
(……護衛の……変更……?
まさか……)
侍従は続ける。
「ロウ殿は、しばらく別任務に就くようにとのことです」
ロザリンの心臓が跳ねた。
「……別任務……?
どうして……?」
声が震えていた。
ロウも驚いたが、
すぐに表情を整えた。
「姫様……宰相閣下のご判断です。
従うしか──」
「嫌よ」
ロザリンは即座に言った。
ロウも侍従も、息を呑んだ。
「ロウを……遠ざけるなんて……
そんなの……納得できない」
ロザリンの声は震えていたが、
その瞳は強かった。
侍従は困惑しながら言う。
「で、ですが……宰相閣下のご命令で……」
「宰相の命令でも、私は嫌。
ロウは……私の護衛よ」
ロウは胸が熱くなるのを感じた。
(……姫様……
そんなふうに……俺を……)
しかしロウは、
姫の気持ちに甘えるわけにはいかない。
「姫様……お気持ちは嬉しいですが……
私は……王家の命令に従う立場です」
ロザリンはロウを見つめた。
その瞳は、泣き出しそうなほど揺れていた。
(……ロウが……いなくなるなんて……
そんなの……耐えられない……)
ロザリンはそのまま宰相の執務室へ向かった。
扉を開けると、ヴァルガ宰相は穏やかな笑みを浮かべていた。
「姫様。
どうかなさいましたか」
ロザリンは一歩踏み出した。
「ロウを……遠ざける理由を教えて」
宰相は微笑みを崩さない。
「姫様の安全を守るためです。
お見合いの準備期間中は、
外部からの使者も増えますので──」
「理由になっていないわ」
宰相の目が細くなる。
(……姫様がここまで強く反発されるとは……)
ロザリンは続けた。
「ロウは……私の護衛よ。
彼がいないと……困るの」
“困る”
その言葉に、宰相の眉がわずかに動いた。
(……困る、か。
やはり……この二人の関係は……)
宰相は静かに言った。
「姫様。
ロウ殿は優秀ですが……
“特定の護衛に依存する”のは危険です」
ロザリンの胸が痛んだ。
(……依存……?
違う……
私は……ロウが……)
言葉が出ない。
宰相は続ける。
「姫様のためです。
どうかご理解を」
ロザリンは唇を噛んだ。
(……理解なんて……できない……
ロウを奪われるなんて……)
部屋を出たあと、
ロザリンは廊下で立ち尽くした。
ロウがそっと近づく。
「姫様……」
ロザリンは振り返った。
涙がこぼれそうな瞳で。
「ロウ……
行かないで……
お願い……」
ロウの胸が締めつけられた。
(……姫様……そんな顔を……
守りたい……
離れたくない……)
ロウは静かに言った。
「……姫様。
私は……どんな命令を受けても……
必ず姫様のそばに戻ります」
ロザリンの目に涙が溢れた。
(……ロウ……
離れたくない……
絶対に……)
廊下の奥で、
ヴァルガ宰相は二人の姿を見ていた。
(……やはり……
ロウは姫様にとって“特別”だ)
宰相は静かに決意する。
(……ならば──
排除するしかない)
姫とロウの恋は、
ついに政治と真正面から衝突し始めた。




