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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: Erika


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第43話 胸の痛みが形を持ち始める

数日後。


朝の王城は静かだったが、


ロザリンの部屋の前だけは、妙な緊張が漂っていた。


侍従が深く頭を下げる。


「姫様……宰相閣下より、


“縁談の進行状況”についてお話があるとのことです」


ロザリンの胸が、


ドクンと大きく跳ねた。


(……進行状況……?


そんな……もう……?)


ロウが横に控えている。


表情は変わらない。


でも、ロザリンの肩がわずかに震えたのを見て、


胸がざわついた。


(……姫様……


こんなに不安そうな顔を……)


ロザリンは小さく頷き、


宰相の待つ応接室へ向かった。


ヴァルガ宰相は、


いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。


「姫様。


先日お渡しした縁談候補の件ですが──」


ロザリンの喉が、きゅっと締まる。


「数名の候補者から、


“正式なお見合いの日程調整”の申し出が届いております」


ロザリンの心臓が止まりそうになった。


(……お見合い……


日程……?


そんな……急に……)


宰相は淡々と続ける。


「姫様のご都合を伺い、


来月中には一度お会いしていただく方向で進めたいと考えております」


来月。


あまりにも近い。


ロザリンの胸が、


ぎゅうっと痛んだ。


(……そんなの……


そんなの……急すぎる……)


理由は分からない。


でも、涙が出そうになるほど苦しい。


ロウは後ろで静かに立っていた。


しかし、ロザリンの肩がわずかに揺れた瞬間、


胸が強く痛んだ。


(……姫様……


こんなに……苦しそうに……)


ロウは拳を握りしめた。


でも声は出さない。


出せない。


ヴァルガ宰相は、


ロウの“わずかな緊張”を見逃さなかった。


(……やはり……


ロウは姫様の話になると空気が変わる)


まだ恋とは断定しない。


ただ、違和感が確信に近づいていく。


部屋を出たあと、


ロザリンは歩きながら胸を押さえた。


(……どうして……


どうしてこんなに苦しいの……?


結婚なんて……まだ先の話だと思ってたのに……)


ロウが心配そうに声をかける。


「姫様……お身体の具合が……」


ロザリンは首を振った。


「違うの……


身体じゃない……


なんか……胸が……苦しくて……」


ロウは息を呑んだ。


(……胸が……苦しい……?


姫様……)


ロザリンは続ける。


「……お見合いなんて……


そんな急に決められて……


私……どうしたらいいのか分からないの」


ロウは言葉を選びながら答えた。


「姫様が……望まないなら……


無理に進める必要はありません」


ロザリンはロウを見つめた。


その瞳は揺れていた。


(……ロウ……


あなたがそう言ってくれると……


どうしてこんなに……)


胸の痛みが、


もう“ただの不安”ではなくなっていた。


理由はまだ分からない。


でも―


ロウの存在が心の中心にあることだけは分かる。


廊下の角で、


ヴァルガ宰相は二人の背中を見送っていた。


(……姫様の反応……


そしてロウの反応……


どちらも、ただの主従関係には見えない)


しかし宰相はまだ動かない。


まだ“確信”ではないから。


ただ──


観察を深める。


それがヴァルガ宰相のやり方。


ロザリンの胸の痛みは、


確実に強くなっていた。


ロウの胸の痛みも、


確実に深くなっていた。


まだ恋とは気づかない。


でも、


二人の心は確実に動き始めている。

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