第42話 政略結婚が動き出す/胸のざわつきが強くなる
翌朝。
ロザリンは、昨夜から続く胸のざわつきを抱えたまま、
王城の廊下を歩いていた。
(……結婚……
考えろと言われても……
何をどう考えればいいの……?)
頭では理解している。
王家の姫として、いつかは避けられない話。
でも──
胸の奥が、どうしても落ち着かない。
理由はまだ分からない。
執務室の前に着くと、
侍従が深く頭を下げた。
「姫様。
宰相閣下より、縁談の“候補一覧”をお預かりしております」
ロザリンは思わず足を止めた。
(……もう……そんな段階なの……?)
侍従が差し出した封筒は、
思ったよりも重かった。
ロウが横で静かに見守っている。
表情は変わらない。
でも、ほんの一瞬だけ
ロザリンの手元を見た目が揺れた。
ロザリンは気づかない。
でも、胸のざわつきは強くなる。
「……ありがとう。部屋で読むわ」
ロザリンは封筒を抱えて歩き出した。
ロウが後ろに続く。
廊下を歩く間、
ロザリンは何度も封筒を見下ろした。
(……この中に……
私の“結婚相手”が……?)
胸が苦しい。
息が少しだけ浅くなる。
(……どうして……?
どうしてこんなに嫌なの……?)
部屋に戻ると、
ロザリンは机の上に封筒を置いた。
開けるのが怖い。
ロウがそっと声をかける。
「……姫様。
無理に開けなくても……」
ロザリンは首を振った。
「いいの。
逃げても……意味がないもの」
そう言いながら、
手は震えていた。
ロウは気づいた。
でも何も言えない。
(……姫様……
そんなに……苦しそうな顔を……)
ロザリンは封筒を開けた。
中には数枚の紙。
そこには──
各国の王子や貴族の名前、年齢、家柄、功績。
ロザリンは一枚目を読んだ瞬間、
胸がぎゅっと締めつけられた。
(……この人と結婚したら……
私は……ロウと……)
思考がそこで止まる。
(……どうして……
どうしてロウのことが浮かぶの……?)
理由はまだ分からない。
でも、胸が痛い。
ロウはロザリンの横顔を見つめた。
その表情は、
いつもより少しだけ弱く見えた。
(……姫様に……
そんな顔をさせるなんて……)
ロウの胸にも、
小さな痛みが走る。
しかし、
それが“恋”だとはまだ思わない。
ただ、
姫が苦しむのが嫌なだけだと
自分に言い聞かせる。
ロザリンは紙をそっと伏せた。
「……ロウ……
私……どうしたらいいのか分からないの」
ロウは静かに答える。
「姫様が……望まない道なら、
私は……どんな形でもお支えします」
ロザリンはロウを見つめた。
その言葉が胸に深く刺さる。
(……ロウ……
あなたが……そう言ってくれると……
どうしてこんなに……)
胸のざわつきは、
もう“違和感”ではなく
“痛み”に近いものになっていた。
でもまだ、
それが何なのかは分からない。
ただ──
政略結婚が進むほど、
ロザリンの心は苦しくなっていく。
そしてロウもまた、
姫の苦しみに胸を痛めていた。
二人の気持ちはまだ言葉にならない。
でも確実に、
少しずつ、少しずつ
近づき始めていた。




