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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: Erika


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第40話 揺れる心、動き出す影

視察を終えた広場には、


まだ民のざわめきが残っていた。


風が旗を揺らし、


馬の蹄が石畳を軽く叩く音が響く。


ロザリンは馬車の前で立ち止まり、


宰相ヴァルガの言葉を胸の奥で反芻していた。


「この後、もう一か所だけお立ち寄りいただきたい場所がございます」


返事をしようとしたが、喉が固まった。


ロウはロザリンの横で、


静かに宰相を見ていた。


その視線は鋭いが、声は出さない。


宰相もまた、


ロウを観察するように目を細める。


微笑みは崩さないまま、瞳だけが冷たい。


二人の間に、言葉のない緊張が走った。


ロザリンはその空気を肌で感じ、


胸がざわつく。


(……二人とも……何を考えているの……?)


父の弱った姿が浮かぶ。


(……お父様……


本当に、私に“外へ出ること”を望んでいるの……?)


宰相の言葉は本当なのか。


父の意思はどこにあるのか。


胸の奥に冷たい疑問が沈んでいく。


ロザリンの視線がわずかに揺れた。


ロウが静かに口を開いた。


「姫様の安全が最優先です」


その一言に強い意志が宿っている。


宰相は微笑みを崩さず、


柔らかく返した。


「もちろんですとも。


だからこそ、姫様には私がご案内を」


言葉は丁寧。


だが、ロウの言葉を“上書きする”ような響きがあった。


ロザリンは二人の間に立ち、


胸の奥がきゅっと締めつけられた。


広場の端では、


まだ民が名残惜しそうにこちらを見ている。


子どもが手を振り、


母親がその手をそっと押さえた。


(……民の前に立つのは、王女として当然……


でも、今の私は……)


責任感が胸を重くする。


ロザリンの指先が、ほんの少しだけ強張った。


ロウは宰相の部下たちの動きを観察していた。


(……馬車の準備が、早すぎる)


視察が終わったばかりなのに、


次の移動のための馬車はすでに整えられている。


(……姫様の返事を待つ気がない……)


さらに、


広場の出口には兵が増えていた。


視察のときよりも明らかに多い。


(……これは“護衛”ではなく“誘導”だ)


ロウの視線が鋭くなる。


宰相はロザリンの迷いを見抜き、


柔らかい声で追い打ちをかけた。


「姫様。


陛下も……姫様が民の声を聞くことを望んでおられます」


ロザリンの胸が揺れる。


宰相はさらに続けた。


「先ほどの視察で、民は姫様の姿に大いに喜びました。


このままお戻りになれば……


“姫様は民を見捨てた”と噂されるやもしれません」


ロザリンの呼吸が浅くなる。


(……そんな……)


ロウは一歩前に出た。


声は低いが、明確な拒絶があった。


「宰相殿。


姫様を追い詰めるような言い方はお控えください」


宰相は微笑んだまま、


その目だけが冷たく光った。


「追い詰めてなどおりませんよ。


私はただ……姫様の“責務”をお伝えしているだけです」


言葉は柔らかい。


だが、その裏にある意図は鋭い。


ロザリンはロウの横顔を見つめた。


(ロウ……


あなたは、どうしてそこまで……


何を知っているの……?)


“信じたい気持ち”と“分からない不安”が交差する。


迷いは深い。


宰相の部下たちは馬車の扉を確認し、


兵たちは道を整え、


誰かが旗で合図を送っていた。


ロザリンの決断を待たずに、宰相の罠はすでに動き始めている。


ロウはロザリンの前に立ち、


静かに言った。


「姫様。


流されてはなりません」


ロザリンは息を呑む。


宰相は微笑みを保ったまま、


その瞳だけが冷たく光った。


ロザリンの迷いはまだ終わらない。


だが、


その迷いを利用する影は、


すでに彼女を囲み始めていた。

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