第29話 私は、あなたの心を守る
王城の大広間は、朝から重い空気に包まれていた。
王族と高官が集まる“魔力安定会議”が開かれる日であり、
ロザリンも王女として出席を求められていた。
大理石の床に響く靴音、
高い天井に反響する低いざわめき。
その中心に、宰相ヴァルガが立っていた。
彼の視線は、
ロザリンではなく──
その後ろに控えるロウへ向けられていた。
ロウは無言で立ち、
ただ姫の背を守る位置にいる。
その姿だけで、
すでに会議の空気はざわついていた。
会議が始まると同時に、
ヴァルガはゆっくりと立ち上がった。
「姫様。
月影の森での一件について、説明を求めます」
ロザリンは静かに頷いた。
「魔術師たちが私に無断で接触しようとしたため、
ロウが私を守ってくれました」
ヴァルガの目が細くなる。
「……守った、ですか。
しかし報告によれば、ロウは魔術師たちに対し過剰な力を行使したと聞きます。姫様の護衛として、あまりに危険ではありませんか?」
大広間の空気が揺れた。
ロウは一歩前に出ようとしたが、
ロザリンがそっと手を上げて制した。
その仕草は静かだが、
確かな意志があった。
ロザリンはゆっくりと立ち上がり、
大広間の視線を一身に受けながら言った。
「宰相。
ロウは私を守るために戦っただけです」
ヴァルガは冷たく笑う。
「姫様を守るため……?
しかし、姫様の前に立ち、魔術師たちを退けるその姿勢は、
もはや“護衛”の域を超えている。
姫様に過度に近づきすぎているのでは?」
その言葉に、
大広間の空気が凍りついた。
ロウは拳を握りしめた。
だが、ロザリンは一歩も退かない。
「宰相。
あなたは、私の命を守る者を“危険”と呼ぶのですか?」
ヴァルガの表情がわずかに歪む。
ロザリンは続けた。
「森で私に向けられた術式は、
“測定”ではなく“奪取”でした。
ロウがいなければ、私は今ここにいません」
大広間がざわめく。
ロザリンはさらに言葉を重ねた。
「ロウは命を賭して私を守りました。
その行動を咎めるのは、王家の名に対する侮辱です」
その瞬間、
空気が完全に止まった。
ヴァルガの顔色が変わる。
「姫様……それは……!」
ロザリンは一歩前に出た。
その瞳は揺らぎなく、強い光を宿していた。
「私は、ロウを信じています。
彼の行動はすべて、私を守るためのもの。
それを疑う者は、私の判断を疑う者と同じです」
大広間の空気が震えた。
誰もが息を呑んだ。
ロウはその背中を見つめていた。
姫が自分を守るために、
公の場でここまで言葉を尽くすとは思わなかった。
胸の奥が熱くなる。
(……姫様は、僕を……)
ロウは言葉を失い、
ただ静かに頭を下げた。
ヴァルガは歯噛みしながらも、
姫の言葉に反論できなかった。
王家の権威を前に、
宰相といえども強く出られない。
だが、その瞳には
新たな憎悪と焦りが宿っていた。




