第28話 守護の影が歩く
王城での噂はまだ消えていないが、今日の囁きは“関係”ではなく──
ロウという男そのものに向けられていた。
廊下を歩くロウの背に、
いつも以上に鋭い視線が集まる。
「……あれが、森で魔術師部隊を退けた護衛だ」
「姫様を庇っただけじゃない。結界の中で戦ったって話だぞ」
「封印が揺らいでいるはずなのに……どうしてあんな力が?」
「いや、それだけじゃない。
姫様の前に立つときのあの動き……普通じゃなかった」
ロウは聞こえないふりをして歩いた。
だが、王城の空気は明らかに変わっていた。
王城の者たちは気づき始めていた。
ロウの守り方は、
ただの忠誠や任務では説明できない。
「姫様の前に出るの、なんか早くない?気のせい?」
「姫様の名前を呼ぶ声……他の人と違う気がする」
「姫様が誰かに近づかれると、あの騎士の表情が変わるんだよな」
「ロウ、姫様の気配にだけ敏感すぎない?」
それらが積み重なり、
王城の者たちは“ある結論”にたどり着き始めていた。
「……ロウ様は、姫様のために戦っている」
「任務じゃなくて……本気で守っているんだ」
「姫様の危機になると、あの人は別人みたいになる」
「まるで……姫様だけが、彼の世界の中心みたいに」
そんな噂が、静かに広がっていった。
その日の午後。
ロウは訓練場で剣の手入れをしていた。
そこへ若い騎士が近づいてきた。
「ロウ様……昨日の森での戦い、本当なんですか?」
ロウは手を止めずに答える。
「何が本当かは知りませんが……姫様を守ったのは事実です」
若い騎士は息を呑んだ。
「やっぱり……。
でも、どうしてそこまで……?」
ロウは少しだけ目を伏せた。
「……守ると決めたからです」
その言葉は短いが、
重く、揺るぎなかった。
若い騎士はその表情を見て、
何も言えなくなった。
ロウの“守る”という言葉には、
他の騎士たちのそれとは違う深さがあった。
夕暮れの廊下。
ロウが巡回をしていると、
侍女たちが小声で話しているのが聞こえた。
「ロウ様って……姫様のことになると、目が変わるのよ」
「昨日も、姫様が倒れそうになった瞬間、
誰よりも早く駆け寄ったって……」
「姫様が少しでも不安そうだと、ロウ様の表情が柔らかくなるの。
あれは……普通の護衛じゃないわ」
「姫様を守るためなら、命を捨てる覚悟があるって噂も……」
ロウは足を止めなかった。
だが、胸の奥に静かな痛みが走った。
(……姫様に迷惑がかかる)
それだけが気がかりだった。
しかし、噂は止まらない。
むしろ、ロウの行動が新たな噂を生み続けていた。
その頃、宰相ヴァルガは報告を受けていた。
「ロウの“守護行動”が王城中で話題になっています。
姫様を守るために命を張ったと……」
ヴァルガの表情が歪む。
「忌々しい……!
ロウが“姫の守護者”として認識されれば、
姫様の力を奪う計画が崩れる!」
机を叩く音が、部屋に響いた。
「ロウを排除するだけでは足りない。
姫様の周囲から完全に引き離さねばならん……!」
夜。
ロウはひとり、王城の外壁を見上げていた。
噂がどう広がろうと、
自分がやるべきことは変わらない。
(……姫様を守る)
それだけだ。
ロウは静かに目を閉じ、
胸の奥にある誓いを確かめた。
──僕の命は、あなたのために使う。
その誓いは、
噂に揺れる王城の中で、
ひときわ強く、静かに輝いていた。




