第22話 姫様に触れることは、誰にも許されません
ロザリンは中庭で花に触れていた。
指先から淡い光が溢れ、花弁が揺れる。
その光は、以前よりも強く、温かい。
「……また、力が……」
ロザリンが不安げに呟いた瞬間──
背後の茂みがわずかに揺れた。
ロウは即座に反応し、ロザリンの前に立つ。
「姫様、下がってください」
その声は低く、鋭い。
次の瞬間、黒いローブの影が中庭に現れた。
ヴァルガ宰相の側近たち──
魔術師部隊。
「姫様。
宰相閣下の命により、魔力の検査を行います」
ロザリンは眉をひそめた。
「検査……?
そんな命令、聞いていません」
魔術師は冷たく笑う。
「姫様の魔力は不安定です。
王国の安全のため、今すぐ確認が必要なのです」
その言葉はもっともらしいが、
ロウには分かっていた。
──これは、花の力を奪うための“接触”。
ロウはロザリンを背にかばい、魔術師たちを睨む。
「姫様への接触は許可されていません。
宰相の命令であろうと、私が通すことはできません」
魔術師の一人が嘲るように言った。
「封印が揺らいだ月の守護者が、何を偉そうに」
ロウの瞳が細く光る。
だが怒りではない。
冷静な、戦闘の判断。
魔術師たちは魔法陣を展開し始めた。
ロザリンの花の力を“測定”するという名目で、
実際は力を引き剥がすための術式。
ロザリンは息を呑む。
「ロウ……!」
ロウは一歩前に出た。
「姫様。目を閉じてください」
その瞬間、魔術師たちの魔法陣が輝き──
ロウの足元にも淡い光が走る。
(……来る)
ロウは魔力を抑えたまま、
最小限の動きで魔術師の術式を切り裂いた。
風が走り、光が弾ける。
「なっ……!」
「術式が……破られた……!?」
ロウは静かに言う。
「姫様に触れることは、誰にも許されません」
魔術師たちは後退し、焦りの色を浮かべた。
「退け。
宰相閣下の命令だぞ!」
ロウは一歩も動かない。
「宰相の命令より、姫様の安全が優先です」
その言葉は、王城の空気を震わせた。
魔術師たちは撤退を余儀なくされ、
中庭から姿を消した。
ロザリンはロウの背にそっと触れる。
「ロウ……ありがとう。
あなたがいなかったら……」
ロウは振り返り、静かに微笑んだ。
「姫様を守るのが、私の役目です」
しかしその影で──
ヴァルガ宰相は歯噛みしながら、
次の手を準備し始めていた。
ロウが邪魔なら、
もっと強引な手段を使うしかない。




