第23話 姫の涙
魔術師たちが去り、中庭に静けさが戻った。
ロザリンは胸に手を当て、震える息を整えようとしていた。
花の力が暴れたわけではない。
ただ──怖かった。
ロウがいなければ、
自分はあの場で力を奪われていた。
ロウはロザリンの様子を見て、
そっと距離を詰めた。
「姫様……大丈夫ですか…?」
その声は、戦闘のときよりもずっと柔らかい。
ロザリンは答えようとしたが、
喉が震えて声にならない。
ロウは気づく。
ロザリンの肩が、かすかに揺れていることに。
「……怖かったんです」
ようやく絞り出した声は、
今にも消えてしまいそうに弱かった。
ロウは驚いた。
ロザリンが“弱さ”を見せることは滅多にない。
そして──
ロザリンの目から、
透明な涙がひと粒、静かに落ちた。
その涙は、
ロウの胸の奥を強く締めつけた。
ロザリンは慌てて顔を伏せる。
「ごめんなさい……こんなところ、誰にも見せたくなかったのに……」
ロウは首を横に振る。
「……姫様。
涙を見せてくださったのは、私だけで構いません」
ロザリンは顔を上げる。
ロウの瞳は、驚くほど優しかった。
「私は……姫様の涙を、弱さだとは思いません」
ロザリンの胸が熱くなる。
涙がまたひと粒、頬を伝う。
ロウはそっと手を伸ばし──
触れない距離で止めた。
「……泣いてもいい。
ここには、私しかいません」
その言葉に、
ロザリンは堪えていたものが崩れた。
ロウの前でだけ、
静かに、声もなく泣いた。
ロウはただ、
その涙を守るように立ち続けた。
中庭の花々が、
二人を包むように揺れていた。




