第20話 不穏な動き
ロウの封印が揺らいだ夜から、王城の空気は静かに変わり始めていた。
その変化の中心にいるのは──宰相ヴァルガ。
彼は執務室で一人、古い魔術書と記録を広げていた。
その中には、かつてフローラ王妃を“実験体”として扱った際の
魔術式の断片が残されている。
「……花の力は、やはり王家の血と深く結びついている。
次に継承するのは──ロザリン姫か」
ヴァルガの目が細く光る。
その光は、研究者の好奇心ではなく、
王国を乗っ取るための冷酷な計算だった。
「フローラ王妃の時は、抽出が不完全だった……
だが、次は失敗しない」
その声は低く、冷たい。
そこへ側近が駆け込んできた。
「宰相閣下、報告がございます。
ロウ殿の封印が昨夜、一時的に揺らいだとのことです」
ヴァルガの手が止まる。
そして、ゆっくりと口角が上がった。
「……好都合だ」
側近が息を呑む。
「封印の揺れは、姫の不安に反応しただけとの噂も──」
「噂などどうでもよい。
“危険性がある”という事実だけで十分だ」
ヴァルガは立ち上がり、窓の外の王城を見下ろした。
「ロウは邪魔だ。
花の力を守る存在など、私の計画には不要。
むしろ──排除すべきだ」
その声には、迷いが一切なかった。
「姫の護衛を外し、拘束する理由が必要でしたが……
封印の揺れは、絶好の口実となりましょう」
側近は震えながら頷く。
ヴァルガは続けた。
「ロザリン姫は、母と同じ力を継ぎ始めている。
あの力を完全に抽出できれば……
王家は終わり、私が新たな支配者となる」
その言葉は、王国の未来を冷たく切り捨てる宣告だった。
一方その頃──
ロザリンはロウと共に中庭を歩いていた。
ロウの表情は静かだが、どこか張りつめている。
「ロウ……何か、嫌な気配がするの」
ロザリンの言葉に、ロウはわずかに眉を寄せた。
「姫様。
どうか、私から離れないでください」
その声は、いつもより低く、強かった。
ロザリンは胸の奥に広がる不安を押さえながら、
ロウの隣にそっと寄り添った。
その瞬間──
王城のどこかで、ヴァルガの命令が静かに動き始めた。
ロウを排除し、
ロザリンを次の“実験体”にするために。




