第18話 ロザリンだけが…
城の空気は、昨日よりさらに重くなっていた。
ロウが廊下を歩くだけで、侍女たちは道の端に避け、兵士たちは無言で距離を取る。
その視線には、恐れと警戒が混じっていた。
ロウは何も言わない。
表情も変えない。
ただ静かに、淡々と任務をこなすだけだった。
だがロザリンには分かっていた。
その沈黙の奥に、どれほどの孤独が隠れているか。
(ロウは……誰よりも優しいのに)
ロザリンは胸を痛めながら、ロウの後ろ姿を見つめた。
彼は誤解されても怒らない。
恐れられても反論しない。
ただ、ロザリンを守るためだけに存在しているかのようだった。
昼下がり、ロザリンは中庭でロウを呼び止めた。
「ロウ。少し……話せる?」
ロウは静かに頷き、ロザリンの前に立つ。
その姿勢はいつも通り丁寧で、揺れがない。
けれど、ロザリンには分かった。
彼が“自分の感情を隠している”ことを。
「皆……あなたのことを誤解しているわ」
ロウは目を伏せた。
「僕のことをどう思われようと構いません。
姫様が無事であれば、それで十分です」
その言葉は強く、揺るぎない。
しかし、ロザリンの胸は締めつけられた。
「ロウ。
あなたは……本当にそれでいいの?」
ロウは答えない。
沈黙が、彼の本音を物語っていた。
ロザリンは一歩近づき、ロウの手にそっと触れた。
その瞬間、ロウの肩がわずかに揺れる。
誰にも見せない弱さが、ほんの一瞬だけ滲んだ。
「私は……あなたを怖いなんて思ったこと、一度もないわ」
ロウの瞳が驚いたように揺れた。
ロザリンは続ける。
「あなたがどれだけ力を抑えているか、知っている。
私を守るために、どれだけ自分を犠牲にしているかも」
ロウは息を呑んだ。
その言葉は、彼の胸の奥深くに届いた。
「姫様……」
「皆があなたを恐れても、私は違う。
私は……あなたを信じている」
ロウの胸の奥で、静かに何かがほどけていく。
それは痛みではなく、温かさだった。
ロザリンは微笑む。
「あなたは……私の味方でしょう?」
ロウはゆっくりと頷いた。
「はい。
僕は……姫様の味方です。
誰よりも、何よりも」
その言葉は、誓いのように静かで強かった。
城中が彼を恐れても──
ロザリンだけは、彼を理解している。
その事実が、ロウの孤独をそっと溶かしていった。




