第174話 姫様の隣に立つ者
黒い靄の事件から数日後──王城では、月の力の制度廃止に伴う新たな規定が整えられた。
その中に、ひとつの項目が静かに追加された。
「姫の専属守護騎士は、姫の隣に立つ者として公的に認められる」
月の力の制度が廃止され、新しい規定が整えられた日から──王城の空気は、少しずつ変わり始めていた。
ロウは正式に「姫の専属護衛騎士」として記録され、その立場は制度としても揺るぎないものになった。
だが、ロウの態度は何ひとつ変わらなかった。
ただ、以前よりも少しだけ──ロザリンのそばに立つ時間が増えた。
廊下を歩くとき、ロウはロザリンの歩幅に合わせて静かに寄り添う。その距離は、護衛として自然でありながら、どこか恋人の柔らかい温度を含んでいた。
会議の場では、重鎮たちの視線が強く向く瞬間に、ロウは自然とロザリンの前へ一歩出て立つ。その動きは、守るためのものだが──どこか、寄り添うようでもあった。
侍女たちが慌ただしく動くときは、ロザリンの袖が引かれないよう、ロウはそっと手を添えて守った。
ロザリンが書類に目を落とすと、
ロウはその横で静かに待ち、必要なときだけ短く言葉を添える。
その姿は、王城の人々の目に確かに映っていた。
「姫様とロウ殿は、前から特別な関係のようだった」
「恋人同士なんじゃないかって……皆言ってる」「ロウ殿なら姫様を支えられる。あの方は優しい」
王城の中で、噂が自然と広がっていった。
その噂は、誰かが広めたわけではなく、ロウとロザリンのふとした視線や、互いを気遣う仕草から自然に生まれたものだった。
騎士たちも、ロウの働きを誇りに思いながら、ふたりの距離に気づいていた。
「ロウ殿は、姫様を本当に大切にしておられる」「護衛というより……寄り添っているように見える」
かつて批判的だった者たちでさえ、ロウの誠実さを、静かに認め始めていた。
ロザリンは、ロウが自分のそばに立つたび、胸の奥が静かに温かくなるのを感じていた。
ロウもまた、ロザリンの手が袖に触れるだけで心が揺れたが、それを表に出すことはなかった。
ふたりは内緒の恋人同士。
誰にも言わず、ただ静かに互いを想っていた。
その想いは、王城の空気の中で、ゆっくりと形を持ち始めていた。




