第173話 月の守護種の復権
「……僕は、ただ……王都と姫様をお守りしたかっただけです」
その一言は、飾り気のない、まっすぐな声だった。
静かで、揺らぎがなく、胸の奥にある本心だけをそっと置いたような響きだった。
重鎮たちの表情が変わった。
長年、月の力を危険視してきた者たちが、
ロウの姿を見つめ、その静かな眼差しに触れ、ゆっくりと、固く閉ざしていた心を思い直していく。
ひとりの重鎮が、深く息を吐いてから口を開いた。
その声は、これまでの偏見を手放すように、どこか重さを含んでいた。
「……ロウ殿は、今までずっと王城と姫様のために動いてくれていた。
ヴァルガを捕らえるための捜査を、最初から最後まで”動かしてくれた”と聞いている」
その言葉は、ロウが積み重ねてきた静かな行動の重みをようやく正しく見つめた者の声だった。
別の重鎮が続けた。
「……ロウ殿が動いてくれなければ……あの宰相の闇は暴けなかっただろう……とも言われている」
さらに、別の重鎮が静かに言葉を重ねる。
「今回の件も……ロウ殿がいなければ、王都は闇に包まれていたかもしれん」
そして、重鎮たちがロウへ向けて深く頭を下げた。
その動きは、長い年月の誤解を手放すように、静かで、重く、真摯だった。
「……ロウ殿、我々は……
月の力を危険視するあまり、ロウ殿の行動を正しく見られなかった。
そのこと……済まなかった。」
重鎮の声は、
謝罪の言葉であり、これまでの偏見を認める言葉でもあった。
「……今回のこともそうだが……今まで良くやってくれた……感謝する」
ロウは驚いたように目を瞬いた。
その表情は、
長い間受け入れられなかった力がようやく認められた静かな喜びに揺れていた。
ロザリンは一歩前に出た。その姿は、光の中に立つ影のように凛としていた。
「……月の力を危険視する制度は、本日をもって廃止と致します。」
重鎮たちが息を呑む。
その音は、長く続いた偏見が崩れ落ちる瞬間のようだった。
ロザリンは続けた。
「ロウは……正式な“月の力の守護種の末裔”です。
王都を守る力を持つ者として、ここに正式に認めることとします。」
重鎮たちは深く頷いた。
「……ロウ殿を、正式に”月の力の守護種”として迎えようではないか」
「……うむ、そうしよう」
ロウは胸に手を当て、静かに頭を下げた。
「……皆様、ありがとうございます。これからも……王都と姫様をお守りすること、
ここに誓います」
その声は、光の中に溶けていくように穏やかだった。
そして、ゆっくりと息を吐くようにして──ひとりの重鎮が、静かに手を打った。
その音は会議室に柔らかく響き、続いて、別の重鎮が手を打った。
やがて、
重鎮たち全員がロウへ向けて拍手を送った。
その拍手は、激しいものではなく、長い誤解を解き、ひとりの騎士を正式に迎え入れるための静かで深い音だった。
ロザリンはロウの横顔を見つめ、胸の奥が温かくなるのを感じた。
王都の光は完全に戻り、
その中心に立つロウの姿は、まるで月の静かな輝きのようだった。




