第165話 黒い瘴気
ロザリンとロウは、王都の光の異変を確かめるために街へ向かった。
朝の光は弱く、王都全体が薄い影をまとっているように見えた。
ロウは歩きながら、
胸の奥にわずかなざわつきを感じていた。
「……姫様。このあたり、濁っています」
ロザリンは足を止め、周囲の空気を確かめるように
目を細めた。
「黒い瘴気が……広がっているの?」
ロウは静かに頷く。
「はい。月の力が、微かに反応しています。瘴気の源が……近いのかもしれません」
ロザリンはロウの横顔を見つめた。
「ロウ……胸のざわつき、昨日より強い?」
ロウは少しだけ息を整えた。
「はい。瘴気が濃くなるほど……月の力が揺れます。姫様の光があるから抑えられていますが……」
ロザリンは心配そうに眉を寄せた。
「無理はしないで。あなたが苦しいのは……嫌よ」
ロウは小さく首を振る。
「大丈夫です。姫様が隣にいれば……月は荒れません」
二人は路地を進む。花の光が弱い場所ほど、空気が重く感じられた。
やがて──古い建物の影に、薄い黒い靄が漂っているのが見えた。
ロザリンは息を呑む。
「……ここにも……昨日より……濃い気がするわ」
ロウは靄に手を近づけ、指先で空気の流れを探るように触れた。
その瞬間、胸の奥で月の力がざわりと揺れた。
ロウは眉を寄せる。
「……間違いありません。これは……宰相ヴァルガが使っていた禁術の残滓です」
ロザリンは息を呑む。
「ロウ……分かるの?」
ロウは静かに頷いた。
「はい。月の力は……あの禁術にだけ、特有の反応をします。他の闇では揺れません。これは……ヴァルガの禁術の痕跡です」
ロザリンは黒い靄を見つめながら、
胸の奥に小さな疑問が浮かんだ。
「……どうして、王城には残っていなかったのに……街の端には、こんなに瘴気が残っているかしら?」
ロウは靄を見つめながら、胸の奥のざわつきを確かめるように息を吸った。
「……月の力が、ここでは強く反応しています。」
ロザリンは小さく頷く。
「……もしかして……王城には、私の花の光が満ちているから……瘴気の残滓がないのかしら……」
ロウはロザリンの言葉を静かに受け止めた。
「姫様の光が強い場所では、月も濁りません。だから……王城には残滓が漂わないのだということでしょうか……」
ロザリンは黒い靄を見つめたまま、胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。
「……王都の光が弱まっている理由が、少しずつ見えてきたわ」
ロザリンは黒い靄から視線を離し、ロウの手元へそっと目を向けた。
「ロウ……触れて大丈夫なの?禁術の残滓なんでしょう?」
ロウは手を引きながら、ロザリンの心配を和らげるように微笑んだ。
「姫様の光が近くにある限り、僕は大丈夫です。月の力が……闇に飲まれないよう守ってくれています」
ロザリンは胸に手を当てた。
「……私の光が、あなたを守れているなら……よかった」
ロウは少しだけ視線を伏せた。
ロザリンは黒い靄を見つめ直し、静かに息を吸った。
「このままでは……花の光が消えてしまうわ」
ロウはロザリンの横に立ち、その言葉を静かに受け止めた。
「姫様。瘴気の源を探し出しましょう。」
ロザリンは小さく頷いた。
「ええ……ロウと一緒に」
ロウは歩き出す前に、ロザリンの手にそっと触れた。
「姫様……怖くはありませんか?」
ロザリンは少し驚いたようにロウを見た。
「怖いわ……でも……あなたがいるから進めるの」
ロウはその言葉に、
胸のざわつきが少し静まるのを感じた。
「……必ず、光を取り戻します」
二人は黒い靄の漂う路地を離れ、瘴気の源を探すためにさらに奥へと歩き出した。




