第161話 封印を解く儀式
壁画の紋章に触れた瞬間、祠全体が震えた。
光が弾けるように広がり、
ロウの胸元の刻印が淡く反応する。
壁画の光がふたりの手を包み込んだまま、ゆっくりと形を変えていく。
ロザリンの花の光と、ロウの月の力が重なり合い、壁画の紋章の中心へ吸い込まれるように流れ込む。
その瞬間──壁画の中央に、新たな模様が浮かび上がった。
ロザリン「……ロウ……これ……」
ロウ「……儀式の……形……?」
浮かび上がった模様は、ふたりの力が重なった時にだけ現れる“二重の紋章”。
外側は月の守護種の紋章。内側は花の光を象徴する紋章。
ふたつが重なり、ひとつの“完全な紋章”になっていた。
ロザリンは息を呑んだ。
ロザリン「……ロウ。封印を解く儀式は……“花と月の紋章を重ねること”……なの?」
ロウはロザリンの手を握り返した。
ロウ「……姫様の力と……僕の力を……?」
壁画の光がふたりの胸元に集まり、ロウの刻印へと吸い込まれていく。
ロザリン「……ロウの封印は……本来、花の光で“制御される”はずだった……それをヴァルガが歪めて……奪う刻印に変えた……」
ロウは静かに頷いた。
ロウ「……だから……本来の形に戻すには……姫様の光が必要なんですね」
壁画の紋章が強く輝き、
ふたりの手を導くように光を伸ばす。
ロザリンの花の光が、ロウの月の力と重なり合い、壁画の中心へ吸い込まれるように流れ込む。
その光が──ロウの右腕の刻印へと戻ってきた。
ロウ「……っ……」
刻印が淡く脈打つ。まるで心臓の鼓動と重なるように。
ロザリン「ロウ……!」
ロザリンはロウの手を強く握った。その指先が震えているのを、ロウは感じた。
ロウ「だいじょうぶです……姫様……これは……痛みじゃなくて……」
刻印がゆっくりと形を変え始める。
今までロウを縛っていた“歪んだ封印”の線がほどける。
ロザリン「……ロウの力が…………本来の力に戻ろうとしてる……」
ロウは息を震わせながら頷いた。
ふたりの手を包む光が、
ゆっくりと更に強さを増していく。
その瞬間、ロウの体がわずかに震えた。
ロウ「……っ……!」
ロザリンはロウの肩を支えた。
ロザリン「ロウ……!離れないから……大丈夫よ……!」
ロウはロザリンの手を握り返す。その握り方は、迷いのない恋人の距離。
ロウ「……姫様が……隣にいてくれるなら……僕は……どんな痛みでも……耐えられます……」
刻印が完全に光を帯び、偽物の封印がひび割れるように崩れ始める。
ロザリンの花の光が、そのひびを優しく包み込み──
本来の紋章の形へと変換していく。
光がふたりを包み込み、祠全体が白く染まる。
そして──
ロウの刻印が、完全に“本来の紋章”へと変わった。
偽物の封印は、跡形もなく消えていた。
ロザリン「……ロウ……封印が……解けたわ……」
ロウはゆっくりと息を吐いた。その瞳は、今まで見せたことのないほど澄んでいる。
ロウ「……姫様……ありがとうございます……僕を……本来の姿に戻してくれて……」
ロザリンは、ロウの本来の紋章にそっと触れた。
そこにある紋章は、もう“奪う刻印”ではなく──ふたりを守る紋章だった。
祠の光がゆっくりと弱まり、静けさが戻ってくる。
けれど、ふたりの手は離れなかった。
刻印の光が強くなる。祠の空気が震える。
ロザリンは静かに頷いた。
ロザリン「うん。……ふたりの力は、ふたりを守る力なんだね。」
壁画の光がふたりを包み込み、祠全体が淡い月光に満たされていった。




