第160話 本来の紋章
祠の奥は、外よりもさらに静かだった。空気が重く、古い魔力が眠っている気配がする。
ロウとロザリンが足を踏み入れた瞬間──
祠の中央にある壁画が、月光を受けてゆっくりと光を帯び始めた。
最初は淡い光。
けれど、次第にその光は強く、深く、まるで“呼吸するように”脈打ち始める。
ロザリン「……ロウ……見て……」
壁画に刻まれた古代の紋章が、ひとつ、またひとつと浮かび上がる。
ロウの刻印は“歪められた偽物”。
今、壁画に浮かび上がっているのは──
ロウは息を呑んだ。
ロウ「……これが……本来の……紋章……」
壁画の光がロウの胸元の刻印に反応し、淡い月光がロウの体に吸い寄せられるように揺れた。
ロザリンはロウの腕にそっと触れた。その指先が震えているのを、ロウは感じた。
ロザリン「……ロウ。あなたの封印は……この紋章を模倣して作られたものなのね……」
ロウは静かに頷いた。
ロウ「……ヴァルガが言っていた通りです。
本物は“力を制御する紋章”。僕の刻印は……それを奪うために歪められた。」
壁画の光がさらに強くなる。祠全体が淡い月光に満たされていく。
ロザリンの花の力が、その光に反応して淡く揺れた。
ロウはロザリンを見つめた。その瞳は、決意と不安と、少しの希望で揺れている。
ロザリンはそっとロウの手を取った。その触れ方は、迷いのない恋人の距離。
ふたりは並んで壁画の前に立つ。
壁画の中央──本物の紋章が、月光の中心で静かに輝いていた。
ロザリンはロウの手を包むように握り、そのまま壁画へそっと触れた。
指先が紋章に触れた瞬間──祠全体が震えた。
光が弾けるように広がり、ロウの刻印が淡く反応する。
ロザリンの花の力が、ロウの月の力と重なり合い、紋章の光と共鳴する。
ロザリン「……ロウ……!」
ロウ「……姫様……!」
光がふたりを包み込む。
その光は、奪うための封印ではなく──本来の“守護の紋章”が目覚める光。
光の中心で、壁画の紋章がゆっくりと形を変えた。
まるで、ふたりの力に応じて“本来の姿”を
取り戻していくように。




