第159話 月狼の祠
月影の森へ向かう道は、王都とはまったく違う静けさに包まれていた。
ロウはロザリンの少し前を歩いていたが、時折ふり返ってロザリンの歩幅に合わせる。
ロザリンもそれに気づいて、自然にロウの隣へ並ぶ。
森の奥へ進むほど、空気は冷たく、
月の気配が濃くなる。
ロザリンはロウの横顔を見つめる。その瞳の奥にある決意と、少しの不安。
ロザリンは歩きながら、そっとロウの手に触れた。その触れ方は、迷いのない恋人の距離。
ロザリン「……ロウ。あなたの力は、奪われたものじゃない。本来の力を取り戻すために行くのよ。」
ロウはその手を握り返した。
ロウ「……はい……」
ふたりの影が、
森の細い光の中で重なりながら進んでいく。
やがて──木々の密度が変わり、空気がさらに冷たくなる。
ロウが足を止めた。
ロウ「……姫様。もうすぐです。」
ロザリンは静かに頷いた。
月影の森の最奥──世界から切り離されたように静まり返っている。
風は止まり、木々のざわめきすら消えている。
その場所だけが“時間の外側”に置かれているようだった。
古代の石造りの祠が、闇の中でひっそりと佇んでいる。
苔むした壁面は、
触れれば冷たく湿っていそうなほど深い緑を帯びている。
崩れかけた柱は、長い年月を耐え抜いた痕跡を静かに
刻んでいた。
けれど──そのすべてが、
どこか“呼吸している”ように見えた。
まるで祠そのものが、ロウの帰りを待っていたかのように。
ロザリン「……ここが……」
声を落とした瞬間、空気がわずかに震えた。
ロウは祠を見つめたまま、ゆっくりと息を吸った。
ロウ「……月狼の祠です。俺の一族が……最後に守っていた場所。」
その声は、祠の静けさに溶けるように淡く響いた。
ロザリンはロウの横顔を見つめた。
月光に照らされたその
瞳の奥には──喪失、そして決意が重なっていた。
ロザリンはそっとロウの手を取った。
その触れ方は、迷いのない恋人の距離。
ロザリン「行こう。ロウの封印を解く鍵が……ここにあるなら。」
ロウはその手を握り返した。指先がわずかに震えている。
ロウ「……姫様が隣にいてくれるなら……僕は、どんな真実でも受け止められます。」
祠の入口に一歩踏み出した瞬間──風が完全に止まった。
森のざわめきが消え、空気がひんやりと冷たくなる。
ロザリンの花の力が、祠の奥から漂う“古い月の気配”に反応して淡く揺れた。
光は、ロザリンの胸元から静かに広がり、ロウの手を包むように淡く灯る。
ロザリン「……ロウ。祠が……あなたを認識してる。」
ロウは静かに頷いた。その瞳は、祠の奥にある“真実”を見据えている。
ロウ「……行きましょう。この先に……封印の本当の意味があります」
ふたりは並んで祠の中へ進んだ。
その瞬間──祠の奥から、古代の壁画が月光を受けてゆっくりと光り始めた。
淡い光が、祠の闇を静かに押し返す。
まるで、ふたりを待っていたかのように。
そして“花と月の契約”が再び動き出す瞬間を歓迎しているかのように。




