第155話 政略結婚、正式破棄の宣言
王の私室は、昼の光が薄く差し込むだけの静かな空間だった。重厚なカーテンは半ば閉じられ、空気はゆっくりと流れている。
ロザリンが部屋へ一歩踏み入れると、
ベッドの上で父王は上体を少し起こし、まだ完全には戻らない体力を支えるように枕へ背を預けていた。
父王は娘の姿を見て、かすかに目を細めた。
ロザリンは胸元を押さえ、息を整えるようにゆっくりと吐いた。
その瞳は、娘の決意をまだ知らないままで、
静けさを湛えていた。
ロザリンは胸元を押さえ、息を整えるようにゆっくりと吐いた。
ロウは隣で、その息の震えをすぐに受け取る。静かにロザリンの心へ寄る気配で。
ロザリンはベッドのそばに立ち、まつげを震わせながら小さく呼びかけた。
「……父上。」
その声は静かで、けれど揺れていた。
父王はゆっくりと娘へ視線を向けた。
「ロザリン……どうした?」
その声は弱く、けれど確かに娘を案じる響きがあった。
ロザリンは視線を落とし、胸の奥にある言葉をゆっくりと、押し出すように続けた。
「兄上が進めていた政略結婚の件ですが……」
父王は短く息を吐いた。
「ああ……あれか。」
ロザリンはまつげを震わせ、けれど目をそらさずに言った。
「政略結婚の件……私は、受け入れられません。」
空気が止まった。
父王の瞳が、娘の言葉を確かめるように揺れた。
ロザリンは続けた。
「国のためと言われても……
私は、自分の心を偽れません。
誰かと結婚して国を繋ぐのではなく……私自身の意思で、この国を守りたいのです。」
その声は震えていたが、折れてはいなかった。
ロウはその震えを感じ取ると、静かにロザリンへ気配を寄せた。
言葉ではなく、寄り方で支える甘さで。
「……姫様の言葉は、真実です。」
父王の視線がロウへ向く。
ロウは頭を下げず、ただ静かに受け止めた。
「姫様は……誰かに従って生きる方ではありません。ご自身の心で選ばれる方です。」
ロザリンはロウを見た。その横顔は、ロザリンのためだけの甘さだった。
父王は長い沈黙のあと、深く息を吐いた。
「……ロザリン。」
その声は、かすかに震えていた。
「お前の決意は……理解した。政略結婚の話は……ここで終わりにしよう。」
ロザリンの肩がわずかに揺れた。その揺れを、ロウは静かに受け止める。
父王は続けた。
「お前が選ぶ道を……私は尊重する。」
ロザリンは目を伏せ、その言葉を胸の奥でゆっくり受け止めた。
そして、父王に深く頭を下げる。
「……ありがとうございます、父上。」
部屋を出るとき、ロザリンはほんの少しだけロウの方へ肩を寄せた。
ロウはその気配を受け止めるように、静かに寄り添った。
廊下の光が二人の影を伸ばし、その影は、離れずに並んで揺れていた。
ロザリンの胸の奥には、確かな解放と、ロウの存在が静かに灯っていた。




