父王の告白─
レオンハルト国王の寝室は静かだった。
まだ体は起こせない。けれど、瞳はしっかりとロザリンを追っていた。
ロザリンは椅子を引き寄せ、父の手に触れた。
「……父上。兄上を──禁術ほかの余罪で捕らえました」
レオンハルトの瞳がわずかに揺れた。
「……そうか……」
その声は弱いが、確かに父の言葉だった。
ロザリンは続けた。
「……兄上は今は拘束されています。」
レオンハルトはゆっくり息を吐いた。その表情は痛みとも哀しみともつかない。
沈黙が落ちたあと──レオンハルトはゆっくり口を開いた。
「……ロザリン。あの子のことを……話さねばならん」
ロザリンは父の顔を見つめた。その目は、遠い昔を見ていた。
「ヴァルガは……赤子の頃から賢い子だった。
泣き声も小さく、よく周りを見て……人の顔を覚えるのが早くて、勉強もよくできた」
ロザリンは息を呑む。父がヴァルガの昔話をするのは初めてだった。
「私の兄、デービッド前国王が……あの子を捨てたとき、
私は……どうしても放っておけなかった。あれは……まだ赤子だった。何も知らぬまま……捨てられた子だった」
声が少し震えた。
「兄が捨てた子を守るのは……私の役目だと思った。
あの子に“捨てられた”などと言えるわけがない。王家の闇は……子どもに背負わせるものではない」
ロザリンの胸が強く締めつけられた。
「だから……私はフローラ以外には言わなかった。
ヴァルガにも……お前にも……誰にも……」
レオンハルトは目を閉じたまま続けた。
「……ロザリン。あの子が私に禁呪をかけた時……私は抵抗しなかったのだ……」
ロザリンは息を止めた。
「……なぜですか」
レオンハルトは静かに答えた。
「……私には……罪悪感があった。あの子を守ると言いながら……結局は傷つけてしまった。真実を言わなかったことで……あの子を孤独にした」
声が震えた。
「だから……私は敢えて禁術を受けた。あの子の怒りを……私が受けるべきだと思った」
ロザリンの目が揺れた。父の言葉は、静かで、痛くて、優しかった。
ロザリンは父の手を握りしめた。
「……兄上は……父上を憎んでいました。“前国王は自分を捨てた”と……“父上は何も言わなかった”と……」
レオンハルトの指がわずかに震えた。
ロザリンは続けた。
「でも……兄上は……父上が憎いと言いながら……父上にかけた禁術を……解いてくれました」
レオンハルトの瞳が揺れた。
その揺れは、痛みでも怒りでもなく──ただ、静かな涙の前触れだった。
ロザリンはそっと言葉を置いた。
「兄上は……父上を憎んでいたはずなのに……最後は……父上を殺そうとはしませんでした。禁術を……解いてくれました」
レオンハルトはゆっくり息を吸い、そのまま、静かに涙を流した。
声は出ない。
ただ、頬を伝う涙だけが、長い年月の痛みを語っていた。
ロザリンは父の手を包み込み、そっと額を寄せた。
寝室の空気は静かで、ただ二人の影だけが寄り添っていた。




