第148話 明日の移送に向けて──静かな準備
取調室を出ると、地下の空気がゆっくりと揺れた。
ロザリンは歩みを止めず、ロウはその横に立ち、ヴァルガは鎖をつけられたまま後ろを歩く。
ヴァルガは前を向いたまま、低く言った。
ヴァルガ「……姫様。私は“救うために”従うわけではない。」
ロザリン「分かっています。」
ロウはヴァルガの言葉に反応せず、ただロザリンの横で静かに歩いた。
階段を上がると、地上階の廊下に出た。そこは地下よりも明るいが、空気は重かった。
ロウは歩きながら、小声でロザリンに確認した。
ロウ「姫様。移送は本日ではなく、
明日でよろしいですか?」
ロザリン「ええ、父上の部屋の警備を整えてからでないと……ヴァルガを近づけることはできません。」
ロウは短く頷いた。
ロウ「では、衛兵隊に配置の変更を伝えます。ヴァルガを通す導線も確認します。」
ロザリン「お願いします。」
ヴァルガはその会話を聞きながら、冷たい声で言った。
ヴァルガ「……慎重だな、姫様。陛下を守るためか?」
ロザリンは立ち止まらず答えた。
ロザリン「……父上を守るためだけではありません。あなたを“制御するため”です。」
ヴァルガはわずかに笑った。その笑みは従順さとは無縁だった。
ヴァルガ「囚人を扱う手際は悪くない。」
ロウが一歩だけヴァルガの前に出た。
その動きは静かだが、護衛としての圧があった。
ロウ「ヴァルガ、
姫様への侮辱は慎んでいただきたい。」
ヴァルガはロウを見た。
ヴァルガ「侮辱ではない。事実を言っただけだ。」
ロザリンは二人の間に静かに声を落とした。
ロザリン「ロウ……ヴァルガの言葉に反応しなくていいわ。明日の準備を優先して。」
ロウ「……承知しました。」
廊下を進むと、衛兵が数名待機していた。
ロウは彼らに指示を出す。
ロウ「明日、ヴァルガを陛下の部屋へ移送する。導線の確保と警備の再配置を行え。姫様の安全を最優先に。」
衛兵「はっ。」
ヴァルガはその様子を見て、静かに言った。
ヴァルガ「……姫様。本当にあなたは慎重だ。」
ロザリン「……当然です。
ヴァルガ、あなたは父上を憎んでいる。そのあなたを近づけるのですから。」
ヴァルガは目を伏せず、ロザリンを見た。
ヴァルガ「明日、命じられた処置を行う。それだけだ。」
ロザリン「分かっています。」
ロウはロザリンの横に戻り、静かに言った。
ロウ「姫様。準備は今日中に整えます。明日、ヴァルガを連れて陛下の部屋へ向かいましょう。」
ロザリンは短く頷いた。
明日──国王の衰弱を和らげるための移送が行われる。




