第147話 憎しみと拘束の中で
城の地下へ続く階段は、昼でも薄暗かった。ロザリンとロウの足音だけが、石壁に静かに響く。
ロウはロザリンの少し前を歩いていた。背筋は保っているが、肩の緊張は隠れていない。
階段を降りきると、取調室の前で衛兵が待っていた。
衛兵「姫様、専属護衛兵殿。ヴァルガは中で待機しております。」
ロウは短く頷き、ロザリンと共に取調室へ入った。
部屋は狭く、中央に机と椅子が二つ。その向かい側に、ヴァルガが座っていた。
鎖はついていない。ただ、机の上に両手を置き、静かに待っていた。
取調室の扉が閉まると、ロウはロザリンの横に立った。その位置は、護衛兵としての絶対の距離。
ヴァルガは椅子に座ったまま、ロウの存在を一度だけ見た。
ヴァルガ「……姫様。ロウまで連れてくるとは。」
ロウは答えない。ただ、ロザリンの横で静かに立つ。
ロザリン「兄上……父上の容態について話を聞きに来ました。」
ヴァルガはロザリンではなく、ロウの方へ視線を流した。
ヴァルガ「……囚人の私に拒否権はない。 聞きたいなら聞けばいい。」
ロザリン「……禁術の影響で父上の衰弱が進んでいるなら、それを扱えるのは……兄上だけ……
父上を救える手がかりがあるか……聞きにきました」
ヴァルガはロザリンを見た。その目は静かだが、冷たさを含んでいた。
ヴァルガ「……陛下の衰弱の原因を知りたいと。」
ロウの肩がわずかに強張る。
ロウ「ヴァルガの、禁術の影響だと考えています。」
ヴァルガは口元だけで笑った。
ヴァルガ「禁術は私が組んだ。陛下にかけたのも、私だ。
……だが、陛下がどうなろうと、私には関係ない。憎い相手だ。」
ロザリン「……父上を憎んでいるのですね。」
ヴァルガは否定しなかった。
ロウが一歩前に出る。
ロウ「それでも──陛下の衰弱を和らげる方法を知っているのは、あなたしかいない。」
ヴァルガはロウを見た。その視線は鋭いが、敵意だけではなかった。
ヴァルガ「……術者である私が残滓を回収すれば、衰弱は軽くなる……それは事実だ。」
ロザリン「兄上が行う必要があるのですね。」
ヴァルガは短く息を吐いた。
ヴァルガ「姫様。勘違いしないでください。」
ロザリンは黙って聞いた。
ヴァルガ「私は陛下のために動くわけではない。あなたのためでもない。」
ロウの喉が鳴る。
ヴァルガは机の上の指を軽く叩いた。
ヴァルガ「……囚人として捕らわれている以上、“やれと言われたことをやるしかない”だけです。」
ロザリンは静かに息を整えた。
ロザリン「それでもいいわ……父上の衰弱が和らぐなら……理由は問いません。」
ヴァルガは目を閉じた。
その表情は静かだが、憎しみは消えていない。
ヴァルガ「準備ができたら呼びなさい。……命じられた処置を行う。」
こうして、国王の衰弱を和らげるための、
ヴァルガを連れ出す準備が始まった。




