第146話① 真実の後に
部屋に戻ると、ロウは扉の前で立ち止まった。
背筋は保っていたが、肩がわずかに震えていた。
ロザリンは何も言わず、その手を取る。
導かれるまま、ロウはソファーの端に腰を下ろした。
ロザリンも隣に座る。
その瞳は揺れていたが──伏せなかった。
ロザリン「……ロウ……」
ロウは返事をしようとしたが、喉が痛むように震えて声にならなかった。
胸の痛みは消えない。
だが、崩れ落ちずに済んだ。
ロウ「……すみませ…… 姫様の前で……このような……」
その言葉を遮るように、ロザリンは迷わずロウを抱きしめた。
──恋人として、迷いのない抱擁だった。
ロウの肩の震えが、少しだけ弱くなった。
ロザリンはロウの背に手を添え、
花の力をそっと流した。
柔らかい光がロウの胸の奥に触れ、
痛みを静かにほどいていく。
ロウ「……姫様…………ありがとうございます。」
ロザリン「ロウ……
あなたが立ち続けてくれたから……
私はここにいるの。」
ロウは目を閉じた。ロザリンの力が胸の奥の痛みを静かにほどいていく。
ロザリン「あなたが耐えてきたこと……
私は全部、分かっていますよ……。」
ロウは目を閉じた。
その言葉が胸の奥に落ちて、崩れかけていた心を支えた。
ロザリン「ロウ。
あなたは私の騎士で……恋人です。強いところも……弱いところも……全部、大切に思っています。」
ロザリンはロウを抱きしめたまま、その震えが完全に収まるのを待っていた。
ロウの呼吸が静かに整いはじめた頃、ロザリンは少しだけ腕の力をゆるめた。
ロザリン「……ロウ……」
呼びかけは短く、その一言だけでロウは目を開いた。
ロウ「……はい、姫様……」
声はまだ弱い。
それでも先ほどまでの震えは、もう収まっていた。
ロザリンの温もりに包まれていると、張り詰めていた心が少しずつほどけていく。
真実を知った痛みは残っている。
母のことも。
父のことも。
故郷のことも。
忘れられるはずがない。
それでも今は、不思議と苦しくなかった。
ロウはそっとロザリンの肩に額を預けた。
ロザリンは何も言わず、その髪を優しく撫でる。
ロウは、その手の温もりが心地よかった。
守ると誓った人なのに、今は自分が守られている。
だが、それも悪くないと思えた。
ロウは目を閉じた。
ロザリンの腕の中は、どこよりも安心できる場所だった。
ロザリンはそんなロウの表情を見つめていた。
尋問室で見た苦しそうな顔とは違う。
まだ傷は癒えていない。
だが、ようやく呼吸ができるようになった人の顔だった。
ロザリンは安心したように微笑み、そっとロウの手を握る。
その手を、ロウも握り返した。
言葉はいらなかった。
ロウがようやく力を抜いてくれたことが、ロザリンは嬉しかった。
こうして寄り添っている時間が愛おしい。
ずっとこのままでいたいと、思ってしまうほどに。
二人は寄り添ったまま、静かな夜を過ごした。
そして、ロウはいつの間にかソファーにもたれかかり、
目を閉じていた。
ロザリンもその隣に身を寄せたまま、
静かに眠りについていた。
長く苦しい一日の終わりだった。
互いの温もりを感じながら、ふたりはそのまま朝を迎えた。




