第145話① 尋問室―月影の村―
灯りの揺れが、尋問室の空気をさらに重くした。
ロウは、ロザリンの横顔を見ていた。ロザリンは目を伏せず、ただ受け止めていた。
兄と向き合うその姿は、震えているのに──それでも崩れない。
その姿が、ロウの胸をさらに締めつける。
(……姫様……兄上と呼んだ言葉を拒まれて……それでも向き合っている……こんな顔……させたくなかった……)
胸の奥が、ゆっくり熱くなる。
(……姫様まで……傷つけるのか……父さんも……母さんも……村も……全部奪って……それでも……まだ……)
ロウは拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む。
(……“騙されていた”……?“優しさを信じられなくなった”……?そんなこと……俺には関係ない……)
父の笑顔が、ふっと浮かぶ。
──「ロウは強い子だ」
その声が、胸の奥で震えた。
(……父さんは……優しかった……誰より……強かった……その父さんを……“器”と呼んだ……この男は……)
ロウはゆっくり顔を上げた。ヴァルガ宰相をまっすぐ見た。
ロウ「……あなたが……どれだけ傷ついていたとしても……僕の父を殺した事実は……変わりません。」
ヴァルガの目がわずかに揺れた。
その揺れは、同情ではなく──触れられたくない傷に触れられた時の反応だった。
ロウ「……あなたの沈黙の痛みは……あなたのものです。でも……僕の痛みも……僕のものです。」
ロザリンが小さく息を呑んだ。
ロウ「……僕は……あなたを許しません。」
その言葉は静かで、深くて、揺れない声だった。
ロウの胸の奥で憎しみと痛みが、静かに重なっていた。
ヴァルガは沈黙していた。その沈黙は、語られた痛みの続きのように見えた。
ロウはゆっくり息を吸った。胸の奥の痛みが、別の問いを押し上げてくる。
ロウ「……あなたは……僕の村を焼きました。母を死なせました。僕を実験体にしました。」
ロウは震えていた。でも、逃げなかった。
ヴァルガはロウを見る。
ロウ「……僕の村も……母も……全部……あなたが奪ったんです。」
ロザリンはロウを見た。その瞳は揺れていたが──伏せなかった。逃げずに、ロウの痛みを受け止めていた。
ロザリン「……ヴァルガ、なぜロウの村を焼いたのですか?」
鎖の音を鳴らし、ヴァルガがゆっくり顔を上げた。
ヴァルガ「……月影の村を焼いた理由を知りたいのか。」
ロウは静かに息を止めた。
喉の奥が、ひどく重い。
真実を追い求めてきたはずなのに、いざその扉が開こうとすると足がすくんだ。
この先で語られるものが、自分たちの想像をはるかに超えるものだと、本能が告げていた。
沈黙に耐えきれなくなったように、ロザリンが口を開く。
ロザリン「理由を聞かせてください。月影の村は……何かを知っていたんですか?」
ヴァルガはしばらく答えなかった。
ロウの心臓が大きく脈打つ。
月影の村。
焼失した村。
隠された真実。
ヴァルガは闇の向こうを見つめた。
ヴァルガ「ならば話そう。」
その一言に、ロウの胸は重く沈んだ。
ロウとロザリンは、言葉を失った。




