第143話 慰め
ロザリンの涙はまだ落ちていた。胸に寄せた額の下で、呼吸が細く揺れている。
ロウは背に添えた手を、そっと強めた。
支えるだけでは足りないと感じた。今は、寄り添うだけではなく──壊れた時間の痛みに触れるべきだと思った。
ロウ「……姫様。信じてきた時間は……本物だったんです」
ロザリンの肩が震えた。涙がまた落ちる。
ロウ「嘘だったのは……ヴァルガ宰相の行いです。姫様が信じてきた気持ちまで、嘘じゃありません」
ロザリンは胸元を掴んだまま、小さく息を震わせた。
ロザリン「……ロウ……でも……壊れたの……」
ロウはロザリンの手を、そっと包んだ。
ロウ「壊れたのは……姫様のせいじゃありません。壊されるほど、大切だったんです。だから……痛いんです」
ロザリンは目を閉じた。涙がまつげに溜まり、また落ちる。
ロザリン「……ロウ……胸が……苦しい……まだ……消えない……」
ロウはロザリンの髪に指を通した。
乱れた束をゆっくり整える。
ロウ「消えなくていいんです。痛みがあるなら……僕がそばで支えます」
ロザリン「……こんなに……苦しいなんて……」
ロウはロザリンをそっと抱き寄せた。
強くではなく、壊れた心を包むための距離で。
ロウ「苦しいのは……大切だった証です。姫様が弱いからじゃない。大事にしてきた時間が……深かったからです」
ロザリンは胸元を掴んだまま、その言葉に小さく震えた。
ロザリンの涙がまた落ちた。その涙は、もうひとりで抱える痛みではなかった。
ロウはその涙を、静かに受け止め続けた。
ロウ
「僕はそばにいます。姫様が落ち着くまででもなく……落ち着いたあとも……ずっと」
ロザリン「……ロウ……あなたが……
触れてくれると……少し……楽になる……」
ロウはその言葉に、胸の奥で小さく息を吸った。
ロウ「楽になってくれるなら…… 僕は何度でも触れます。 姫様が落ち着くまで……ずっと」
ロザリンは目を閉じた。涙の跡がまだ頬に残っている。でも、呼吸はさっきより静かだった。
ロザリン「……ロウ……そばに……いて…… 今は……それだけで……いい……」
ロウはロザリンを抱き寄せた。強くではなく、壊れた心を包むための距離で。
ロウ「います。姫様が望むなら……この距離のままで」
ロザリンはロウの胸に額を寄せた。
その体温が、胸の奥の痛みにゆっくり染みていく。
灯りの揺れが、二人の影を静かに重ねていた。




