第141話 判決後
部屋に戻ったロザリンは、扉を閉めたあと、しばらく動かなかった。
判決の言葉がまだ胸の奥に残っている。
ヴァルガの叫びも。「捨てられた子」「拾われた赤子」「血は繋がっていない」
ロウは静かに部屋へ入り、ロザリンのすぐ近くで立ち止まった。声はかけない。ロザリンが息を整えるのを待っていた。
静けさがロザリンの胸の奥の揺れを、そのまま浮かび上がらせた。
ロザリン「……ロウ」
名前を呼ぶ声が、いつもより少し弱い。
ロウ「はい……」
ロザリンはゆっくり机まで歩いた。歩幅が少し乱れている。
禁術記録の上に手を置こうとして──触れる直前で止まる。指先が空中で震えた。
ロザリン「ヴァルガ宰相は……父上に拾われた子だったのね」
ロウ「……ええ」
ロザリン「血は……繋がっていなかった」
ロザリンは目を伏せた。
まつげが揺れる。ロウはゆっくり近づき、ロザリンの手に触れた。触れただけで、ロザリンの肩がわずかに揺れる
ロザリン「兄だと……思っていたのに」
ロウ「ロザリン様……」
ロザリンは顔を上げる。視線が揺れている。
ロザリン「……ずっと……兄だと思っていたのよ。あの人の言葉も、態度も……全部……」
声が掠れた。言葉の終わりが少しだけ震える。
ロウ「……はい」
ロザリン「なのに……違ったなんて……」
ロザリンは机の端に指を置いた。その指が、わずかに沈む。支えを探すように。
ロウ「……ロザリン様」
ロウは少し近づく。ロザリンの呼吸が浅くなる。
ロザリン「……どうしたら……いいのか分からないの」
ロウはその手を包む。強く握らない。逃げ道を塞がない距離で支える。
ロザリン
「兄だと思っていた人が……義兄だったなんて……そんなこと……急に受け止められないわ」
その言葉は、揺れそのものだった。
ロウ「それで……いいんです」
ロザリンは目を閉じた。まつげが震える。呼吸がわずかに乱れる。
ロザリン「ロウ……そばにいて」
ロウはロザリンの頬に触れた。指先が、静かに髪を撫でる。恋人同士の甘さは、声ではなく、この触れ方にだけ宿っていた。
ロウ「もちろんです……ここにいます」
ロウの声は短いけれど確かだった。
ロザリンはその言葉に、ほんの少し息を震わせる。ロウの温度が、胸の奥のざわめきを静かに落としていく。
二人の影が、部屋の灯りの中で重なった。
その重なり方は、
揺れを支える恋人同士のものだった。




