第140話 静かに落ちる判決
護衛がヴァルガを連れて行こうとした瞬間、ロザリンは静かに言った。
「……判決を言い渡します」
会議室が張り詰める。
ロザリンは席を立ち、ヴァルガの前に立つ。
その目は、怒りでも憎しみでもなく、ただ事実だけを見つめる者の目だった。
「ヴァルガ宰相……」
静かな声が響く。
「あなたは──王国法で禁じられている禁術を研究し、その術式を父上……レオンハルト国王に施した」
重鎮たちが息を呑む。
「そして、父上の生命力を奪う術式を施した」
淡々と、事実だけを並べる。
「その結果、父上は衰弱し、王国は混乱し、あなたは王権の奪取を試みた」
ヴァルガは何も言わない。ただ、静かにロザリンを見ていた。
ロザリンは続けた。
「そして──母上……フローラ王妃の死に関わる禁術研究を行い、王妃の診断記録を改竄した」
重鎮たちのざわめきが収まるまで、静かに待った。
そして、淡々と言った。
「以上の二つの罪とは、宰相としての責務を捨て、王国を危険に晒した重大なものです」
ロザリンは立ち上がる。
空気が張り詰める。
「あなたが父上に施した禁術──生命力を搾り取る術式は、王国法で最も重い罪です」
ロザリンは一歩前へ出た。
「ゆえに──」
短い沈黙。
会議室の全員が息を止める。
「禁術行使・王妃殺害関与及び反逆の罪、そして宰相直属の侍医の移送の罪により、宰相職を剥奪。
王城地下拘禁区へ終身収監とします。以後、王国の政治への関与を禁じます。」
護衛がヴァルガの両腕を取る。
ヴァルガは抵抗しない。最後にロザリンを静かに見た。
その目は、怒りでも憎しみでもなく──ただ、終わりを受け入れた色だけがあった。
ロザリンは視線を逸らさなかった。
静かに、まっすぐに受け止めた。
ヴァルガ宰相の声がかすれる。
「私は……“捨てられた子”のまま終わるのが……どうしても許せなかった」
ロザリンの指が、ほんのわずかに震えた。
だが、表情は変わらない。
ヴァルガは連れて行かれる。
扉が閉まる音が、会議室に重く響いた。
誰も動かない。
ロザリンはゆっくりと息を吸い、机の上の禁術記録に手を添えた。
その指先は、また少しだけ震えていた。
ロウが静かに近づき、ロザリンの横に立った。
言葉はない。
ただ、ロウがそこにいてくれるという事実だけが、ロザリンを支えていた。




