表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: きの子ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/28

第14話 花の王女の胸に落ちる影

王城の庭は、夕暮れの光に静かに染まっていた。


ロザリンは白い花の前で立ち止まり、そっと指先で花弁を撫でる。




その瞬間、胸の奥に冷たい影が走った。


まるで誰かに心臓を掴まれたような、ひやりとした痛みだった。




──母の手の温もり。


──優しく微笑む横顔。


──そして、あの日の沈黙。




ロザリンは息を呑む。


忘れたはずの記憶が、突然胸の奥から浮かび上がる。


心臓がきゅっと縮み、呼吸が浅くなる。


花の香りが、あの日の部屋の匂いと重なった。




「……どうして、今……」




自分でも驚くほど弱い声が漏れた。


ロザリンは胸に手を当て、震えを抑えようとする。


夕暮れの光が揺れ、影が長く伸びていく。




その背後で、ロウが静かに歩み寄った。


気配を乱さず、ただロザリンの揺れを感じ取るように。




「ロザリン様……?」




ロザリンは振り返り、笑おうとした。


けれど、その笑みは弱く、どこか壊れそうだった。




「大丈夫よ。


ただ……少し、思い出しただけ」




ロウは何も言わない。


ただ、ロザリンの横に静かに立つ。


その沈黙は、言葉よりも優しく、ロザリンの孤独を包んだ。




ロザリンは視線を落とす。


母の死は“病”とされている。




けれど、ロザリンの胸の奥には、説明できない違和感がずっと残っていた。


母が亡くなった日、兄の表情がほんの一瞬だけ微笑んだことを。


父が何かを言いかけて、結局口を閉ざしたこと。


すべてが、胸の奥に小さな棘となって刺さっている。




「……母様は、本当に……」




言いかけて、ロザリンは口を閉じた。


言葉にしてしまえば、何かが壊れてしまう気がした。




ロウは横目でロザリンを見つめる。


その瞳は静かで、揺れない。


しかし胸の奥では、封印刻印がかすかに疼いていた。




守りたい。


この人の痛みを、全部。




ロウはその疼きを押し込める。


ロザリンの前で揺れるわけにはいかない。




ロザリンは気づかない。


ただ、ロウの影が一瞬だけ揺れたことだけは感じた。




「……ロウ、そばにいてくれてありがとう」




ロウは静かに微笑む。




「ロザリン様が笑ってくださるなら、僕はそれで十分です」




夕暮れの光が二人を包む。




ロザリンの孤独は、ほんの少しだけ薄れた。


しかしその影は、まだ完全には消えていなかった。




そしてその影が、次の夜──ロウの封印を揺らすことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ