第13話 花の王女の胸に灯る、小さな光
王城の廊下は、いつもより静かに感じた。
ロザリンは歩きながら、胸の奥に残るざわつきを押さえようとしていた。
──兄様の笑顔が、少しだけ怖かった。
理由は分からない。でも、胸がきゅっと縮む。
そんなロザリンの横で、ロウは一歩後ろを歩いていた。
いつも通り。落ち着いていて、静かで、揺れない。
ロザリンはふと、その気配に救われるような気がした。
「……ロウ」
呼ぶと、ロウはすぐに応えた。
「はい、ロザリン様」
その声は、ロザリンの胸のざわつきをそっと撫でるように落ち着かせる。
ロザリンは歩みを止め、振り返った。
「ロウは……私のそばにいて、苦しくないの?」
ロウは少しだけ目を瞬いた。けれど、すぐに静かに首を振る。
「苦しくありません。ロザリン様のそばは……僕にとって、一番落ち着く場所です」
ロザリンの胸が、ふっと温かくなる。
「……本当に?」
「はい。ロザリン様が歩くなら、僕はその後ろを歩きます。ロザリン様が立ち止まるなら、僕も止まります。ロザリン様が不安なら……僕が支えます」
ロザリンは息を呑んだ。
こんなふうに言われたのは、いつ以来だろう。
母を失い、父は弱り、兄は優しいけれど、どこか遠い。
王城の中で、ロザリンはずっとひとりだった。
でも今──ロウの言葉が、その孤独にそっと触れた。
「……ロウ。あなたがいてくれて、よかった」
ロウは微かに微笑んだ。それは、ロザリンにだけ向けられる
とても静かな笑み。
「僕も……ロザリン様がいてくださって、よかったと思っています」
ロザリンの胸のざわつきは、少しだけ消えた。
完全ではない。まだ不安はある。嫌な予感も消えていない。
でも──
ロウがそばにいる。それだけで、孤独が少しだけ薄くなる。
廊下に差し込む光の中で、ロザリンは
ほんの少しだけ笑った。
ロウはその笑顔を見て、胸の奥で静かに誓う。
──この人を守る。どんな闇が迫っても。




