第138話 証拠提出─重鎮たちの前で明かされる真実
朝の王城は、昨夜の気配をまだ引きずっていた。廊下の空気は冷たく澄んでいるのに、どこか張り詰めている。
ロザリンはゆっくりと歩いていた。
胸の奥には、昨夜の影の気配がまだ薄く残っている。だが足取りは迷わない。
後ろを歩くロウの気配が、静かに支えていた。
重鎮会議の間──王国の最高位の者たちが集う場所。
扉の前でロウが小さく息を整えた。
「姫様。中には……宰相派もおります」
ロザリンはロウを見て返事をした。
「……ええ。そうね」
その声は静かだったが、昨夜より少しだけ強かった。
ロザリンは扉を押し開けた。
会議の間には十数名の重鎮たちが並び、その中央に宰相ヴァルガが立っていた。
ロザリンが入ると、ざわめきが走る。
「姫様が……」「本当に証拠を?」
ロザリンは動じず、机の上に革表紙の“写し”を置いた。
「ヴァルガ宰相が残した、フローラ王妃の花の力研究記録の写本です」
ヴァルガの目がわずかに細くなる。
「姫様。そのような古い記録に、何の価値が?」
ロザリンは視線を逸らさず、淡々と告げた。
「価値があるかどうかは──ヴァルガ宰相、あなたが一番よく知っているはずよ」
空気が一瞬、沈んだ。
ロザリンは記録を開き、静かに読み上げる。
「“花の力の適合者は、王家の血筋に限られる”“しかし人工的な適合者の創出は、重大な危険を伴う”」
重鎮たちがざわめく。
ロザリンはページから目を離し、まっすぐヴァルガ宰相を見た。
ヴァルガの表情がわずかに揺れた。
「姫様。根拠のない──」
「根拠ならあるわ」
ロザリンはロウへ視線を送る。
ロウが一歩前へ出て、報告書を置いた。
「宰相の地下研究施設にて、ヴァルガ宰相の直筆の”王妃の記録”と一致する資料を確認。さらに昨夜──その資料を“消すため”に影班が姫様の部屋へ侵入しました」
ロウは報告書の横に、小さな黒い金具を静かに置いた。
重鎮たちが息を呑む。
「これは……影班の制服のボタンではないか」
ロウは短く頷いた。
「昨夜、姫様の部屋で影班と交戦した際に、このボタンがちぎれて落ちました。姫様の部屋の床で回収したものです」
重鎮たちの顔色が変わる。
そして、視線が一斉に宰相へ向く。
「影班が……姫様の部屋に?」「宰相、これはどう説明するのだ」「証拠隠滅のために動いたのか!」
「宰相、説明を!」
ヴァルガの顔色がわずかに変わった。
空気が張り詰める中、
ロザリンはゆっくりと息を吸った。
そして──机の上に、もう一つの革表紙の束を置いた。
重鎮たちがざわめく。
ロザリンは静かに告げた。
「……これは、父上……レオンハルト国王の寝室で見つけたものです」
ヴァルガの肩がわずかに揺れる。
ロザリンはページを開き、淡々と読み上げていった。
「〇月〇日 禁術式・第一段階施行。生命力の吸収は緩やか。
抵抗反応なし。」
重鎮たちが息を呑む。
ロザリンは次のページをめくる。
「〇月〇日 第二段階へ移行。生命力の減衰率が上昇。意識レベル低下。」
空気が凍りつく。
ロザリンは最後の一枚を見つめ、静かに言った。
「これは“父上の命を搾り取るための禁術記録”です。しかも──宰相ヴァルガの直筆。」
重鎮たちが一斉に立ち上がる。
「禁術……?」
「陛下の衰弱は病ではなかったのか」
「宰相……これは……!」
会議の間に、重い沈黙が落ちた。
ヴァルガ宰相は、まるで呼吸の仕方を忘れたように動かなかった。
ヴァルガの顔色が完全に変わる。
ロザリンが静かに禁術記録を閉じる。
「……父上の命を搾り取っていたのね、宰相」
ロザリンは視線を逸らさず、静かに、強く言った。
その言葉に、ヴァルガの肩がわずかに震えた。
沈黙が、さらに深く沈む。
誰も動かない。
息を止めたかのようにしている。
ロウはロザリンを守るように一歩前へ出た。ただ静かに、ロザリンを支える。
ヴァルガはロウを睨みつけた。
そして──
「お前たちに……何が分かる!!
私は……前国王デービッドに“廃棄”された
はずだった子だ!!花の加護がないというだけで!!母は側室扱いで……名前すら記録されていない!!」
ロザリンは息を呑む。
ヴァルガは続けた。
「赤子の私は……捨てられた!!
その私を拾ったのが──今の国王レオンハルト陛下だ!!」
会議室が揺れるような沈黙に包まれる。
その声は、怒りと哀しみが混ざっていた。




