第137話 国王の寝室へ
ロザリンの部屋には、昨夜の影の気配がまだ薄く残っていた。
ロザリンは、そっとロウの方へ視線を向けた。
「……ロウ。昨夜……あなたがいてくれて、助かったわ」
その声は、少しだけ震えていて、でも甘くて、ロウだけに向けられたものだった。
ロウは静かに頭を下げる。
「姫様をお守りできて……よかったです」
ロザリンは胸の奥がきゅっとなるのを感じた。その声が、落ち着かせてくれる。
「……ねぇ、ロウ」
ロウは短く息を吸い、瞳をまっすぐ見た。
ロザリンは少しだけ近づく。距離が縮まると、ロウの体温がふわりと伝わってくる。指先がわずかに震えた。ロウはその震えに気づき、そっと声を落とす。
「大丈夫です。私は……姫様のそばにいます」
ロザリンの胸が、甘く締めつけられた。
「……ロウ。父上の病も……“ヴァルガ宰相の意図”があるのかもしれないって……
そう思ってしまうの」
ロウは否定しなかった。その沈黙が、ロザリンの不安をそっと受け止めてくれる。
ロザリンは小さく息を吸い、決意を固めるようにロウを見上げた。
「ロウ……父上の寝室を調べに行きたいの。……一緒に来てくれる?」
ロウは迷いなく頷いた。
「もちろんです。姫様の願いなら……どこへでも」
ロザリンの胸が、静かに、甘く、熱くなる。
「行きましょう。父上の真実を、この目で確かめるわ」
二人は、国王の寝室へ続く重い扉の前に立った。
ロウが扉を押し開ける。
国王の寝室は薄暗く、空気が沈んでいた。
寝台には国王が横たわっていた。
呼吸は浅く、肌は青白く
まるで──命そのものを削られているような衰弱。
ロウは部屋の魔力の流れを探るように歩き回る。
そうしてロザリンは、ふと棚の前で足を止めた。
「……ロウ。この棚……少し後ろに隙間が……」
ロウが振り返る。
「棚が……?」
ロザリンは手を伸ばし、棚の奥に指を差し込んだ。
そこには、わずかに浮いた板の隙間があった。
ロザリンは静かに力を込めて引き出す。
古い紙束が、そこに姿を現した。
ロウが息を呑む。
「姫様……それは……」
ロザリンは震える手で紙束を開いた。
そして──目が見開かれた。
「……この筆跡……ヴァルガ宰相の……」
ロウが近づく。
ロザリンは一枚を読み上げた。
“〇月〇日禁術式・第一段階施行。生命力の吸収は緩やか。抵抗反応なし。”
ロザリンの声が震えた。
次の紙をめくる。
“〇月〇日第二段階へ移行。生命力の減衰率が上昇。意識レベル低下。”
ロザリンの胸が締めつけられる。
さらに一枚。
“〇月〇日禁術式・維持のため追加施行。生命力の枯渇が進む。このままならいずれは。”
ロザリンの手が震えた。
「……父上は……病気じゃなかった……命を……奪われていた……?」
ロウは静かに言った。
「姫様。
これは“陛下の命を搾り取るための禁術記録”です。しかも──ヴァルガ宰相の直筆。」
ロザリンは紙束を胸に抱きしめた。
「……ロウ……必ず……父上を救うわ」
ロウはロザリンの隣に立ち、静かに頷いた。




