第134話 団長、ロウを呼ぶ
王城の夕刻。赤い光が廊下を染め、影が長く伸びている。
ロウはロザリンの部屋の前で控えていた。その時、重い足音が近づく。
振り返ると、団長が一人で歩いてきていた。
ロウは姿勢を正す。
「団長。姫様の周囲に、不審な影が増えています」
団長は短く頷いた。その表情は、ここ数日でさらに険しくなっていた。
「……ロウ。調査の“結果”を伝える」
ロウの胸がわずかに強張る。
団長は周囲を確認し、ロウを団長室へ促した。
扉が閉まると、団長は机に分厚い紙束を置いた。
「ロウ。お前が報告した“革表紙の研究ノート”──あれを裏付ける記録が揃った」
ロウは息を整えた。
「……どのような記録でしょうか」
団長は紙束を開き、侍医の名が記された報告書を示した。
《侍医○○、研究棟地下にて“意識喪失”の状態で発見》《宰相ヴァルガの指示により移送》《以後の記録は存在しない》
ロウの目が大きく見開かれた。
「……侍医が……地下で……?」
団長は重く頷いた。
「“あの夜”の記録はほぼ消されていた。だが、断片的に残った報告書があった」
さらに団長は別の紙を示す。
《王妃フローラ──最終診断報告書(写し)》《原本は宰相ヴァルガが保管》
「王妃様の最終診断は侍医の筆跡ではない。宰相が原本を隠し、偽造した写しだけを残した」
ロウは息を呑んだ。
「……ノートの内容と一致します」
団長は深く息を吐いた。
「ロウ。宰相ヴァルガの罪は──もはや疑いようがない。 お前の報告と、私の調査が完全に一致した」
ロウは静かに頷いた。
団長は続ける。
「次にすべきことは重鎮たちに証拠を提出し、正式な裁きを開くことだ。 だが──宰相は王国の中枢にいる。証拠を提出する瞬間が最も危険だ」
ロウは息を整えた。
「……姫様を守りながら、確実に動く必要がありますね」
団長は力強く頷いた。
「そうだ。姫様を最優先に、宰相を法の場へ引きずり出す」
ロウはロザリンに、団長の調査結果を伝えた。
ロザリンは静かに目を伏せた。
「……侍医まで……宰相に……」
ロウは頷いた。
「姫様が読まれた“あのノート”の内容と、団長の調査が完全に一致しました。王妃様の死の現場はやはり──宰相ヴァルガの地下研究室でした」
ロザリンは胸元を押さえ、深く息を吸った。
「……母上のために。必ず裁きを受けさせましょう」
ロウは静かに頭を垂れた。
「姫様と共に」
ロザリンの瞳に、静かな決意が宿る。
「ロウ……重鎮たちに証拠を提出する準備をしましょう」
ロウはその言葉に、静かに頷いた。
「はい。姫様と共に、必ず」
そして、静かに頭を垂れた。




