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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: 月乃雫


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133/163

第133話 未整理資料室─封じられた報告書

未整理資料室は、保管庫とは違う静けさを持っていた。




ここは──


“誰も触れたがらない記録”が押し込まれる場所。


団長は松明を掲げ、積み上がった木箱の間をゆっくりと進んだ。




(……この部屋だけ、空気が違う)




埃の匂いに混じって、微かに鉄の匂いがする。


古い血のような、湿った鉄の匂い。




団長は眉を寄せた。


(十数年前の事件記録……侍医の失踪……王妃様の急逝……“あの夜”に関わる資料は、本来ここに送られているはずだ)




だが、棚は不自然に“隙間”が多い。


まるで──誰かが意図的に抜き取った跡。




団長は一つの木箱の前で足を止めた。


箱の側面には、薄く消えかけた文字が残っている。


《研究棟・事故報告書》




団長の目が細くなる。


(……事故、だと?あの夜に“事故”など起きていない)




箱の封を外し、中身を取り出す。


古い紙束がぎっしり詰まっていた。


団長は一枚ずつ丁寧にめくる。


研究員の報告。設備の故障記録。魔力測定の異常値。




そして──団長の指が止まった。


「……これは」




紙の端に、侍医の名前が記されていた。


《侍医○○、研究棟地下にて“意識喪失”の状態で発見》




団長は息を呑む。


(侍医は……“生きて”地下にいた?死体ではなく、意識喪失……?)




さらに読み進める。


《宰相ヴァルガの指示により、侍医は別室へ移送》 《以後の記録は存在しない》




団長の手が止まった。


(……移送先の記録がない?そんなことが……)




紙束の最後のページには、小さく赤い印が押されていた。


《閲覧制限:宰相権限》




団長は紙を握りしめた。


「……封じたな、ヴァルガ」




侍医は“事故”として処理され、その後の行方は宰相の権限で封じられた。


つまり──


侍医は“あの夜”、まだ生きていた。そして宰相が連れ去った。




団長は深く息を吐いた。


(これで線が繋がる……侍医の家族が消えた理由も、家が取り壊された理由も、給金が途絶えた理由も──すべて“宰相が侍医を処理した”からだ)




団長は紙束を抱え、部屋を出ようとした。


その瞬間。


背後で、紙が一枚ひらりと落ちた。


団長は振り返る。


床に落ちた紙には、見覚えのある名前が記されていた。




《王妃フローラ──最終診断報告書(写し)》




団長は紙を拾い上げ、目を見開いた。


(……侍医の筆跡ではない)




そして──その下に小さく書かれた文字。


《原本は宰相ヴァルガが保管》




団長の胸に、冷たい確信が走った。


「……ロウ。お前に話す時が来た」




松明の火が揺れ、団長の影が長く伸びる。


“封じられた報告書”は、宰相の罪を静かに暴き始めていた。

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